この問題では抑止力は効かない。抑止力の定義からすれば当然のことであるけれど。

 

 抑止力というのは、こちらが実際に手を出す(武力を行使する)ことなしに、相手の行動を抑え止めることを意味する。こちらが万が一の際の軍事力を周到に配備したり、その時には躊躇せず行動することを相手に知らせ、その担保として演習なども繰り返しておけば、相手が恐れ入って武力行使をためらうという考え方である。

 

 よくテロリストに抑止力は効かないと言われるが、それはテロリストが死ぬことを恐れないからである。いくら武力で殲滅するぞとおどしても、それを名誉なことだと考えたり、そうしてもらったほうが仲間が増えると信じるテロリストには、抑止力は無用の存在なのだ。

 

 中国は台湾のことを「核心的利益」という言葉で表現する。いろいろな国益の中でももっとも大事な国益がかかっているということだ。歴史的実体的に見て、本当に台湾が疑うことのない中国の領土なのかということには異論があろうが、中国からすれば、列強の野望に国土を荒らされた過去のルサンチマンがあって、台湾が独立したりすることは絶対に許されない。

 

 そして、抑止力というのは、そういう本気の勢力には効かないのである。武力介入することで軍事的な反撃を受けて国力が減衰しようとも、「核心的利益」を放棄するよりマシだというのが、中国の基本的な態度である(もちろんこれは台湾問題について言っているので会って、他の問題でも中国には抑止力が効かないということではない)。そんな中国を相手にするとき、いくら抑止力を強化し、前身配備する部隊を増強し、演習を繰り返したところで、屁のツッパリのようなものなのだ。

 

 もし、そうした路線が意味を持つとすると、中国が武力介入をしてきた時、「抑止が効かなかった」とあきらめるのではなく、本当に軍事行動に出ることしかない。その意味でも、やはり抑止力は、この問題では意味がなく、本気の軍事行動を覚悟するしかないのである。

 

 しかし、こちらが本気の軍事行動をすれば中国は台湾をあきらめるかというと、そんなことはない。いったん台湾を奪い返すことくらいは可能かもしれないが、中国は2回3回とくり返しやってくるだろう。そんな争いにアメリカも日本も耐えられるのかということが、この問題では真剣に考えなければならないことである。(続)