慰安婦問題でソウル中央地裁の新しい判断が示された。前回の判決をくつがえし、国家は外国の裁判権から免除されるというものだ。現在の国際法の水準からして妥当な判決だと言えるだろう。

 

 しかし、「当たり前だろ、国家が裁かれるなんてあり得ない」なんて思ってはいけない。というか、なぜ主権免除の国際法が確立しているかというと、国際関係において国家は特別な地位にあるからということを、ちゃんと知るべきだ。何が特別かと言えば、唯一、外交交渉をできるということだ。

 

 民間人(企業も含め)は主権免除の対象にならない。だから、徴用工問題で、日本の企業が韓国の裁判で訴追されても、「外国の裁判権には服せない」と開き直ることができない。いやでも裁判闘争を闘うことになる。

 

 国家は民間人と違って、相手の国と外交交渉ができる。その結果、ある国の行為が外国で問題になったとして、裁判で決着をつけるのではなく、国と国が交渉して解決しなさいということで、主権免除の法理が定着してきたわけである。

 

 つまり、ソウル地裁でああいう判決があったということは、これで問題にならないということではない。どうやって外交交渉に臨むかを、日韓両政府は真剣に考えなければならないということなのだ。

 

 そして、外交交渉のベースはすでに存在している。2015年の日韓政府合意である。文在寅大統領が正式な合意と認めたのだから。日本政府はこれがベースになることに、もとから異論はなかろう。心を広くして受け入れるべきだ。

 

 問題は運動団体だ。だが、昨日紹介したように、その運動団体の理論的支柱だった方々が、あのような声明を発している。あとは韓国の運動団体だが、河野談話も2015年合意も全否定した挺対協(正義連)は、かつてのような役割を果たせなくなっている。過去の合意をベースにしてもバッシングされない状況が生まれているので、誰かがまとめ役として登場してほしい。がんばれば、関係者が同じ方向を向いて努力することができるはずだ。