前回書いたように、ソウル中央地裁判決が通用するには、当時の韓国が日本によって「不法占領中」だったこと、したがって慰安婦問題とは日本が「我が国民」(韓国国民)に対して行った行為だということが実証される必要がある。

 

 この問題がどう転んでいくのかは分からないが、もし原告の一人が主張しているように、国際司法裁判所で争われたとしよう。そこではどんな結論が出るだろうか。

 

 おそらく、慰安婦問題が人権侵害だったことは認定される程度には、国際司法裁判所の認識は到達している。しかし、当時の韓国が日本に「不法占領中」だったことは、間違いなく認められない。

 

 なんとなれば、そんなことを認めてしまえば、イギリスや、フランス、アメリカ、ベルギー、オランダ、スペインなどが20世紀までに広範に行われた植民地支配が「不法占領」だったと認めてしまうことになるからだ。15人の裁判官のうちアフリカの3人、中南米の2人、日本をのぞくアジアの2人の判断は揺れるだろうが、残りの8人は植民地支配は合法だと言い張っていた(いまもそう言っている)欧米列強の代表である。日本の主権免除を認めてしまえば、植民地支配の過去に関する欧米の主権免除も認められないことになるので、タッグを組んでそれを防止しようとするだろう。

 

 いったん確立した国際法秩序を変更することには抵抗が強い。中国の南シナ海や東シナ海における国際法秩序への挑戦に対しては、国際法をつくった列強だけでなく、かつて欧米の植民地だった国々だって抵抗している。法秩序は安定が求められるという側面があるのだ。

 

 そんななかで、しかし、かつての植民地支配は違法だったという、新しい国際法秩序をつくりださねばならない。いったいどうしたらそんなことが可能になるのか。韓国をはじめとする旧植民地諸国の人々や、それと連帯する旧列強の人々が真剣に考えるべきは、まさにそこにあるのだと思う。

 

 ということで、次回は最終回。(続)