●左右が一致できる範囲の防衛政策と歴史認識を

 

 護憲派を自認する私は、この〝成功〟に味を占めて、護憲の幅を広げることに注力してきた。ごく最近、企画・編集に携わった本の中には、自民党の元幹事長である古賀誠氏の『憲法九条は世界遺産』がある。また、改憲派が自説の根拠とするものの中にも首肯できるものがあるとの立場から、みずから『改憲敵護憲論』(集英社新書)を執筆し、両派が批判しあうだけでなく対話することを呼びかけてきた。

 

 同時に、別の分野にも手を広げている。主に二つの分野である。

 

 一つは、「左右」が一致できる防衛政策を打ち出すことである。私自身二〇一三年、『憲法九条の軍事戦略』(平凡社新書)を上梓したが、その翌年には、「自衛隊を活かす会」(正式名称「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」)を発足させ、事務局長を務めている。代表は防衛官僚としてトップにまで登り詰めた柳澤協二氏である(最後は事務次官待遇である内閣官房副長官補として安全保障と危機管理を担当)。

 

 「左右」が一致するといっても、世界中の悪をアメリカとともに打倒することが平和をもたらすという考えの人や、自衛隊の存在そのものが平和の障害だと考える人など、両翼の中にともに存在する極端な考えの人には受け入れられないかもしれない。しかし、左右のほとんどが一致する防衛政策は可能だし、必要でもあると考え、元自衛隊幹部などを招いてすでに二〇回ほどのシンポジウムや研究会を開催し、日本防衛や国際秩序の構築のための政策についていくつかの「提言」も公表してきた。

 

 もう一つは、歴史認識の分野において、左右が対話する枠組みを提示することである。この分野では、『慰安婦問題をこれで終わらせる。』(小学館、二〇一五年)を書いたことをきっかけに、いくつかの問題提起をしてきた。その過程で、小林よしのり氏とも対談するなど(週刊「東洋経済」)、実際に左右の対話を実現してきた。

 

 この分野においては、日本の近現代史とりわけ侵略と植民地支配をめぐって、歴史学の正統な学説といわゆる歴史修正主義の間には、どうしても埋められない溝がある。それは承知しているが、世論のレベルで歴史修正主義が跋扈する現状は、従来の歴史学にも世論を納得させられない点で反省すべきことがあるし、歴史修正主義といえども学ぶべきことがあるのではないかというのが、私の問題意識であった。慰安婦問題をめぐっても、お互いが相容れないことを主張しているように見えるが、どこかに一致点がないと国民多数が納得する解決策をつくることができない。(続)

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