『「異論の共存」戦略』という本を出すことは決まっていて、出版社から少し意見がついているので、年始から取りかかったんです。その意見を取り入れるだけだと数日で作業は終わる予定だったのですが、原稿を目の前にして考えているうちに、「これは全体を書き改めなければ」と思うようになり、しかしなかなか前に進まず、苦悶する日々が続いてきました。

 

 というのは、この本、もともとはタイトルが『我、自衛官を愛す 故に、憲法九条を守る』というもので、どうやって護憲の主張を広げるかが主題だったのですね。それを出版社に提案する際、『「異論の共存」戦略』としたのは、安倍さんが退陣して、改憲論議がもう終わりになるという局面が生まれ、いまさら護憲の本では受け入れられないだろうと判断したからです。だから、「我、自衛官を愛す 故に、憲法九条を守る」はサブタイトルに回し、憲法問題だけでなく、歴史認識の問題にも言及して書き上げたという経過です。

 

 しかし、読み直せば読み直すほど、多少は書き直したとはいえ、もともとの憲法問題にしばれているという思いが強くなりました。出版社からの意見は、「異論の共存というのは、いま世界でも日本でも広がる分断をどう克服するかということだから、そこを明確にしてほしい」というもので、だからサブタイトルに「分断を乗り越えようと、あがいてきた」とつけたのですが、そうやって全体の構成を見直し、書き始めるうちに、アプローチが異なると、同じ材料も違う扱い方をしなければならないことを自覚し、それで悩み始めたというわけです。

 

 その悩みがほぼ解決し、ようやく全体が見えてきたので、本日から「まえがき」をご紹介します。どうぞ。写真は、本日届いたばかりの『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』です。すでにアマゾンでは予約受け付け中です。

 

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 「超左翼おじさんの挑戦」──私が自分のブログに付けているタイトルだ。いまや絶滅危惧種かとも言われることさえあるが、私は疑いもなく左翼に属している。ただし、「超」が冒頭にあることに注目してほしい。従来型の「左翼」を乗り越えたいという願望があるのだ。

 

 どう乗り越えようとしているかと言えば、ブログのサブタイトルを見れば分かってもらえるだろう。「保守リベラルからリアリスト左翼まで中翼(仲良く)」。右であれ左であれ、極端な人とは一線を画すけれども、ほとんどの人とは対話することが必要であり、仲良くしたいと思っている。さらには、その対話を通じて、ある程度の合意を形成することさえ可能だと感じているのだ。

 

 そういう立場で活動を始めたのは、今から一四年前の二〇〇七年。『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る』(かもがわ出版、以下紹介する書籍の版元は断りのない限り同社)という本を企画、編集した時である。日本共産党で政策委員会安保外交部長という肩書きを付けてもらったこともある私が、退職後に満を持して挑戦した初仕事であった。それまで護憲派にとって異質のものと思われていた自衛隊と憲法九条を共存させる方向性を提示するのが、この本の企画意図であった。当時すでに左翼の退潮は明白であり、護憲の本など売れない時代に入っていた。その中で、この本は、「改憲派がやっている解釈改憲を正当化するもので欺瞞的だ」とか、「護憲の精神と理想を変質させるものだ」などの批判もあったが、幸い読者の反響は好意的で、版を重ねて七刷りとなっている。(続)