予想されていたことだからびっくりはしないが、与える影響は大きいだろうね。韓国政府はどうしていいか分からない状態のようだが、「あんたの覚悟次第だよ」と言いたい。

 

 主権免除の国際法があるからといって、被害を受けたという人が外国政府を裁判に訴えるのを阻止することはできないだろう。普通の法治国家では、その訴えを裁判所が受理することはあり得ないが、いまの韓国の裁判所は、法治国家の裁判所というより、民衆裁判所というか、日本でも戦後すぐ左翼が唱えた人民裁判所のようになっているから、こんな判決を下すこともあるだろう。

 

 問題は韓国政府である。主権免除の国際法は、ある国家が裁判に値するような問題を起こしたとしても、その問題を両国政府間で解決することになっていることによって、国際法として成立している。つまり、今回の判決は、これまでの日韓両国が結んだ条約(65年の日韓条約と請求権協定)、合意(2015年の慰安婦合意)は、主権免除の国際法では解決しないというか、無効だという論理に立っているようなものだ。

 

 しかし、その条約、合意は韓国政府が結んだものである。判決が主権免除の国際法を無視したのは、韓国政府には当事者能力がないといっているようなものだ。政府に頼れないから裁判所が動くという論理である。合意の当事者の一人である韓国政府が、過去の合意を否定する判決をどう受け止め、どう行動するのかという問題が、ここでは問われているのである。

 

 過去の政府が結んだものだから、現在の政府は縛られないというのは通用しない。そんなことになったら国際秩序は崩壊する。日本だって、幕末に結んだ不平等条約について、明治維新で新しい政府ができたからといって、それを破棄するようなことをしなかった。何十年もかけて、血のにじむような努力の上に、改定に持ち込んでいったのである。

 

 韓国の裁判所は、過去の条約は無効だという立場に立ち、韓国政府もそれを受け入れるなら、何十年かけてでも、日本との間で新しい合意をつくる以外にないだろう。明治期の日本政府が欧米列強に頭を下げて改定交渉を何回となく繰り返したように、韓国政府は同じことを日本にお願いするしかないだろう。そして、その交渉が実を結ぶまでの間、裁判所にたいしては判決の実施を留保してもらうしかないだろう。

 

 文在寅政権が過去の政府のいろいろな実績を否定するのはいいことだ。軍事独裁政権時代の多くの負の遺産があるのであって、民衆運動で誕生した文在寅政権としては、当然その方向に進むだろう。

 

 しかし、外交関係は、相手のあることだから、政権が変わったからおじゃんにするというのでは通用しない。間違った条約だと思っても、その条約を結んだのは自分だという自覚が、外交関係では必要なのである。その当たり前のことを、韓国政府がやる覚悟があるのか。それが問われているのである。