安倍さんが退陣して、いま最も頭を使わなければならないのは、護憲運動に携わる人々である。なぜなら、これまでの護憲運動は安倍首相の存在が前提になったものであって、首相としての安倍さんがいなくなったあと、運動の方向性がいまのままでいいのかが問われているからである。

 

 先日、ある地方の9条の会の事務局長さんと飲んでいた際、そのことをとても心配していた。「もう何年もの間、「安倍改憲に反対」をスローガンにしてやってきて、菅さんが安倍路線を継承しているといっても、同じような訴え方では響かないのでは」ということであった。

 

 私に講演を依頼してきた別の9条の会も、講演テーマを「第3次安倍政権(=菅政権)の下での護憲平和運動のあり方」と提示してきたので、同じような問題意識を持っているのだろう(11月15日午後、神戸市勤労会館)。世論と向き合っている9条の会の関係者は、一様に悩み、考えているようだ。

 

 9条の会の本部は、菅政権の発足にあたって、「安倍政権の終わりと改憲問題の新たな局面を迎えて」という声明を発表している。そこで書かれているのは真っ当なことだが、結論が「改憲発議阻止の緊急署名に、改めて取り組みましょう」となっているのは、果たしてどうなのだろうか。

 

 関係者はよくご存じのように、この署名、そもそも冒頭にあって目に付くタイトルが、「安倍9条改憲NO! 改憲発議に反対する全国緊急署名」である。請願項目だって、二つのうちの一つは、「安倍首相らがすすめる憲法9条などの改憲発議に反対します」である。「安倍首相」という存在がもうないわけで、国会に出そうとしても、請願内容がすでに現実と違っているということで、それだけで請願を受け入れない口実にされかねないものだ。

 

 それよりも何よりも、何年もの間、運動団体は「安倍改憲に反対」一色でやってきたので、新たな局面で何を訴えるのか、迷ってしまうだろう。そこで署名だと言われて、署名用紙を相手に示したら、「安倍9条改憲NO!」と書かれているので、相手もこちらも戸惑ってしまう。

 

 9条の会の声明は、「安倍政権を終わらせたことで改憲の企てに大きな打撃を与え、改憲問題は新たな局面に入りました」と書いている。「改憲の企てに大きな打撃を与え」たというなら、運動方針が同じというのは解せない。「新たな局面」にふさわしい運動の提起が求められるのではないか。

 

 まあ、私は私なりに、11月15日はお話ししてきます。