安倍政権論の本の「まえがき」連載中だが、この談話が出たので、本日はそっちを。本の本文のほうで書いていることにも関係するし。

 

 安倍政権論を書きながら感じることは、安部さんって、第二次政権になってから、他の総理大臣ではできなかったことをしていることだ。第一次政権後の福田さん、麻生さん、鳩山さん、菅さん、野田さんと比べてということだが。

 

 経済面では、中曽根さんで頭出しがあり、橋本さんの金融ビックバンで動き出し、小泉さんで本格化した新自由主義路線に修正をくわえている。金融緩和とか財政出動への傾斜である(消費増税を2回もしたので、従来路線への目配りもあるのだが。それに、あれだけ金融緩和したのに、企業は生産力を向上させるために融資を受けて設備投資する行動をとらなかった。資本主義的な成長軌道を描けなかったのだ。ここは数カ月後に出す経済政策の本を見てほしい)。

 

 そして安全保障面。昨日の談話に象徴されるように、敵基地攻撃能力への傾斜である。集団的自衛権の行使容認から続くもので、みずから武力行使をする方向をめざすのが安倍路線である。これがこれまでの自民党の路線と(民主党と立憲民主とも)異なるから、総裁選挙に立候補している石破さんや岸田さんからも異論が出る。

 

 けれども、善し悪しは別にして、安部さんの路線というのは、冷戦終了後もただただ日米安保だけに頼ろうとする従来路線から軌道修正を図っているからこそ、国民のそれなりの支持を得ているのだと感じる。

 

 冷戦時代は、自由主義と共産主義の全面対決(軍事、政治、経済、イデオロギーその他)の中で、アメリカにとって自由主義圏の一角を奪われることは、共産主義への敗北とみなされかたら、日本を自由主義陣営に止めておくことは至上命題であった。だから、アメリカが日本を守ってくれることに、それなりの期待を抱くことができた。

 

 しかし、冷戦が崩壊して、もう共産主義の敗北は決まった。中国の軍事覇権主義は大きな問題だが、尖閣が奪われたからといって、日本が共産主義かするわけではない。現在、米本土が核攻撃されることを覚悟して、アメリカが日本を守ってくれると無邪気に信じている人はいないだろう。 

 

 どこまでそれを自覚しているかは別にして、国民の多くはそれに気づいている。だから、従来型で日米安保下でアメリカの核の傘に頼るという政策だけでは安心できない。

 

 「日本が自分でやるのだ」という安倍路線は、そういう不安に応えるという要素があるのだ。それに対して、集団的自衛権容認以前の自民党の路線に戻るという立憲の考え方、自衛隊の存在が平和の障害だという共産党の考え方では、なかなか支持が広がらない。

 

 アメリカに頼れない時代の安全保障のあり方を対置できないと、安倍路線にもその後継路線にも勝つことはできないだろう。そんなことを感じながら安倍談話を眺めていた。