自民党総裁選挙に立候補しているから当然なのだが、岸田さんの演説を耳にする機会が増えた。まあ、なかなかお話は上手だよね。それに、菅さんが「安倍後継」を前面に打ち出しているからということもあるけど、安部さんとどこが違うのかも述べてはいる。

 

 だけど、総理大臣になれない人だということも、やはり伝わってくる。タイミングをつかめなかったというか、それをたぐり寄せる政治的な勘所が働かないところが、やはり総理の器ではないというか。

 

 要するに、7年8か月の安倍政治というのが、自民党的には大成功であった。だって、国政選挙で勝ち続けて、辞任表明のあとも安倍政治を評価する人が7割もいるというのだから。選挙で自民党に投票する有権者を確保してくれるのが、自民党にとっていい総裁である。

 

 その安部さんに替わって首相をめざすという場合、二つのやり方があった。一つは、安倍政治の継承であり、もう一つは、根本的に変えるということだ。

 

 岸田さんはずっと前者の道を選んでいた。禅譲路線だね。だから、早々と改憲四項目への支持も明確にし、自民党政調として推進するための地方講演会なども主導してきた。

 

 それって、安部さんからの後継指名を受ける上では一つの選択だったろうけれど、岸田さんや宏池会のハト派イメージとは異なっていた。その結果、自民党がまるごと安倍首相的になるのが加速され、ますます禅譲しか選択肢がない状況に追い込まれた。

 

 しかし、やはり岸田さんのイメージが根本的に変わるわけではなく、安倍政治のまるごと継承という自民党の願望は、岸田さんには向かわなかったということだろう。

 

 菅さんは、岸田派を絶望に追い込まないため(というか、自民党内のまるごと安倍政治路線を続けるため)、一年後には総裁選挙があるのだからとか言って、あたかもまだ岸田さんの芽があるかのようにつくろい、反対派の増殖を抑えようとするだろう。それに乗ってしまったら、もう岸田さんは終わり。

 

 岸田さんに次があるとしたら、石破さんのように「グレートリセット」とか言って、安倍政治の対立軸を示せるときだけだと思う。「分断から協調へ」と言っているが、岸田さんのものの言い方はきわめて曖昧で、心が動かない。安倍政治がつくりだした分断の深刻さを、保守の側から断罪するようなことができれば、それはそれで選択肢になると思うんだけれどね。

 

 ただ、もう遅いかもしれない。政治家の決断のタイミングは、やはり難しい。