徴用工関連の資料が展示されているゾーンは、政府が抱え込んでいる矛盾の象徴のような場所でした。そもそも、ここの展示内容にはいったい誰が責任を負っているのか、それが明確ではないのです。

 

 説明する方は、昨日も書いたように、軍艦島の出身者の民間人。そして、仲間を探し出し、証言をしてもらい、それをここで展示するというのがやり方です。そういう施設として運営されているのです。

 

 その結果、「日本人の目で見た軍艦島・徴用工」ということにならざるを得ません。そして、その日本人の目には、多少は苦しかったけれど、日本人も朝鮮人も力をあわせて働いたという記憶が焼き付いているのです。差別なんてとんでもない。

 

 私は、それが真実の一つの側面ではあると思うのです。日本人と朝鮮人がいがみ合うような関係だったら、あんな労働環境で危なくてやっていけない。命に関わることですから、なにがしかの「連帯」みたいなものはあったでしょう。熟練労働と非熟練労働の差による賃金の格差はあったでしょうが、同じ練度で同じ労働をしていて差別したら、その「連帯」は保たれない。

 

 だから、そういう展示をすること自体、問題はないと思います。しかし、連載の冒頭で紹介したように、ここの展示は、「その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいた」という日本政府のユネスコの会議での言明、それを明確にするため「インフォメーションセンターの設置など、犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置」をとるという約束にしたがってできたもののはずです。

 

 このセンターの説明員も、その政府の言明は「エビデンス」だと言っている。だから、そのエビデンスを展示するのが、このセンターの主要な目的でなければなりません。

 

 ところが、そういうエビデンスは、一つも展示されていません。というか、そういうエビデンスはなかったというのが、このゾーンの説明員の立場なのです。

 

 だから、このゾーンにも、先の政府の言明はあらためて展示されているのですが、その上にさらに大きく掲げられているのは、世界遺産登録に当たっての日本政府の弱腰外交を痛烈に批判するパネルなのです。日本政府がいまでも、「その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいた」という言明が真実だと思っているなら、まさにこのゾーンは日本政府批判のゾーンで、「反政府施設」になってしまっている。税金を使って反政府施設をつくるなんて、安倍政権らしくないですよね。

 

 そして、もし、政府の言明がエビデンスにもとづかないもので、間違いだったというなら、時計の針はそれを言明した2015年に戻らざるを得ない。そんな発言ができないというなら、登録を撤回するしかないのだと思います。

 

 でも、朝鮮半島出身者の証言というのが、実は一つだけ展示してあって、ここの目玉なのです。明日はそれについて。(続)