韓国の総領事館邸で考えたことを書いていきますが、ちょうど先ほど、現在執筆中の日米地位協定に関する本で、第九条の出入国管理まで到達したのです(3分の1が書き終わったということです)。その第九条に検疫に関することがあるので、コロナ問題と関連することもあり、ここで紹介しておきます。

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 入国管理の中でも、検疫が適切に実施されるかは、日本国民の健康と命にもかかわる重要問題です。現在、コロナ禍が国民に大きな不安を与えていますから、リアルな問題でもあります。

 

 しかし、地位協定の文面を見れば分かるように、検疫問題については何も書かれていません。これは、少なくとも免除はされていないということですから、そうであるなら、検疫が実施されるのが当然ということになるのが、法治国家のあり方でしょう。ところが日本政府はそういう立場に立ってきませんでした。第一六条を論じる際に詳しく明らかにしますが、日本国法令は適用されないというのです。

 

 「検疫関係につきましては、地位協定上は先生御指摘のとおり何ら規定はございません。したがいまして、こういう場合には、ただいま御指摘のとおり第一六条の一般的な『法令を尊重』ということがかぶさると思います。ただ、国内法令を尊重する義務があるという規定の仕方は、一般的に日本国法令を適用するという場合とは多少意味が違いまして、国内法令を実体的に守る義務があるということでございまして、われわれ日本人が法令の適用を受け、またそれに違反する場合に罰則を受けるということとはちょっと意味が違う」(一九七二年九月一二日、衆議院内閣委員会)

 

 もちろん、「国内法令を実体的に守る義務がある」のですから、アメリカ側が自主的に検疫を実施するということになります。コロナ問題では米兵も世界中で感染していることが指摘されており、軍事作戦の遂行という至上命令のためにも、アメリカ側が検疫を実施しないということはないでしょう。日本より熱心にPCR検査をしていることも考えられます。

 

 日米合同委員会では、これまで次のようなことが合意されてきました。一九五二年——検疫はアメリカ側が実施し、それを日本側に申告すること。感染症の場合、アメリカ側は執った措置を日本側に通報すること。一九六一年——感染症の場合、あらかじめ日本側の検疫所長と協議の上、アメリカ側が措置を執ること。一九九六年——日本の検疫所長はアメリカ側の検疫官の氏名、階級、所属について通報を受けること。二〇一三年——アメリカ側が通報すべき感染症の種類をエボラ、コレラ、結核など六三種を特定すること。

 

 二〇一五年にマーズ、翌一六年にジカウイルスが六三種にプラスされましたが、現時点(二〇年七月)において新型コロナを指定するための合意はされていません。前記の六三種には「指定感染症」も含まれていますので、ただちに合意されるべきでしょう。

 

 いずれにせよ、日本側には検疫を実施する権限はありません。通報を受けるといっても、米兵の誰が感染しているのかまでは知らされないので、基地内では隔離されている米兵が心を癒やすために居酒屋に飲みに来たとして、対策をとりようがないのが現実です。

 

 なお、ここで論じたのは「人」の検疫のみです。「動物」の検疫についても五二年以来、アメリカ側が実施するとされてきました。九六年の合意では、初めて「植物」の検疫も行うことで実施で合意されました。

 

 ドイツ補足協定は、人、動物、植物の伝染病の予防と駆除に関して、原則としてドイツ法の規定を適用することを明確にしています(第五四条)。日本でもそのような合意がされるべきだと思います。