ウキウキしながら共産党の本部を訪れたのは、共産党が拉致問題の運動に少しでも積極的に関わると言ってくれるのではないかと期待したからである。だって、つい最近まで家族会の事務局長をしていた蓮池さんが本を書き、その中で、制裁一辺倒ではなく対話で解決しようと呼びかけている。共産党だって受け入れられる路線だし、これをきっかけに家族会との関係が生まれていけば、運動にとっても共産党にとっても悪いことではないと考えたのである。

 

 ところが、お会いした担当者は、最初から敵対的であった。こちらは、蓮池さんを「赤旗」に登場させてもらうとか、蓮池さんのお話を聞くような場を設けてほしいとか、穏便なお願いをしているつもりである。しかし、その担当者は、「そんなことを要求するのは共産党の内部問題に対する介入だ」とはねつけてくるのである。お願いすることが共産党に対する介入になるというのでは、外部の人が共産党にお願いすることなんか、不可能だということになる。がっかりだ。

 

 その後もずっと続く蓮池さんとの付き合いの中で、蓮池さんは、私の政治的立場をよく知っていて、「今度の選挙では共産党に投票しましたよ」と言ってくれることもあった。だから、さすがに共産党が蓮池さんの本に対してそんな対応をしていたことなどは、ずっと話せなかった(このブログをご覧になって、初めて知ることになるだろう。申し訳ありません)。まあ、それから何年かを経て、ようやく小池さんが対談してくれたりすることにはなるし、現在も関係は良好みたいなので、明らかにしても問題はないだろう。だけど、現在はもう、拉致問題の運動に共産党が何らかの影響を与えるような局面は過ぎ去っている。

 

 それよりも驚いたのは、その敵対的だった担当者だが、その方の部署である。共産党本部の中には、極左や極右などの動向を分析する部署があるのだが、その部署に属する方だったのだ(部署の名前もついていないので担当者のうちの一人と言ったほうが正しいが)。極左や極右の動向分析というと、公安のような部門を思い浮かべる人がいるかもしれないが、共産党は権力を持っているわけではないので本質的に異なる。ただ担当している分野だけは同じということだ。私が在籍していた頃、北朝鮮問題の特殊な会議があると、そこが主催して、国際部からは北朝鮮担当者が参加し、政策委員会からは私が出席していた。そういう部署である。

 

 しかし、いくらなんでも、拉致が北朝鮮の犯行と明確になってから6年もあとのことだ。拉致問題の運動に真摯に向き合い、協力するべき局面だ。そういう時になって、拉致問題の担当が、共産党に敵対する勢力を相手にするような部署が担当しているとは、思いも寄らなかった。連載の冒頭にも書いたように、当時、拉致問題の集会などに行くと、右翼の街宣車ががなり立てるような異様な雰囲気があったことは事実だが、そういう傾向を批判するためにも、国民的な運動として扱い、その中で正すべきは正すという態度をとるべきだっただろう。間違っても危険勢力を相手にする部門が担当するような問題ではない。

 

 左翼が拉致問題をきっかけに国民の中で影響力を減退させたのは、左翼自身にも原因があったのである。本当に残念なことではあった。(了)