国家安全法を中国がつくって香港に適用するって、完全に一国二制度を壊すもので、一昔前なら、いくら中国でも出来なかった。それでも強行するのは二つの背景があると思う。

 

 一つは、香港の人びとが中国の言いなりにならないことが、あまりにも明白になった。それだけの力を香港の人びとが持っていることがわかったので、それを押さえつけるためには特別の力が必要だと思ったのだろう。

 

 もう一つは、中国の体制的な危機である。こちらのほうが、より重大だと思う。

 

 中国の独裁体制をこれまでもたせていたのは、独裁は望まないけれど、暮らしがよくなっていく分には、体制に公然と楯突かないで、おこぼれを得ていこうという中国の人びとの判断だったと思う。いま、コロナ危機で、それが揺らいでいる。

 

 先日、全人代で、経済成長の目標を掲げないようにしたことが話題になっていた。経済が落ち込んでいけば、体制への支持も落ちていく。現在、国民の政府への信頼度を調査すると、中国はかなり高いのだが、そこが変わってくるのが見えている。

 

 そうなると、中国共産党独裁という体制が、国民の直接の批判の対象になるのは明白である。そして現在、香港では、共産党独裁を批判する声が広がっている。香港の現状を放置すれば、中国本土の反独裁の動きが加速され、連携さえしていくかもしれない。

 

 そういう恐れが、現在、中国共産党指導部を覆い尽くしているように見える。そういう意味では、大きな歴史の流れから見ると、独裁の終わりの始まりなのだろう。

 

 しかし、だからこそ、中国共産党は生き残りをかけて弾圧を強化してくる。どれだけの犠牲が生まれるのか、想像もつかない。でも、ここはお互い妥協ができるところではないので(中国共産党が民主主義と人権を尊重する政党に生まれ変わらない限り)、長い対立と分断と騒乱が始まるのだろう。どうすればいいかは見えてこない。