今回、検察庁法の定年延長問題をめぐり、少し俎上に上がったのがこれだった。「特別法は一般法を破る」という法の原則である。

 

 今回の事例に則していうと、国家公務員法が一般法で、検察庁法が特別法という関係になる。定年をめぐって、一般法の規定と特別法の規定の両方が存在している場合、特別法の規定が優先することを意味している。

 

 検察庁法第22条は「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」とある。国家公務員法の定年規定がどうあれ、特別法である検察庁法にこう定められていたら、特別法の規定が優先するということである。人事院がずっと国家公務員法の定年規定は検察には適用しないと明言してきたのは、あまりにも当たり前のことであった。

 

 だから、逆に言うと、安倍首相が、「国家公務員法の規定を検察庁法にも適用しただけだ」と言ったのは、法の原則に対するとんでもない挑戦だったわけだ。人事院があわてて過去の何十年も続いてきた答弁を取り消したのは、あまりにもみっともなかった。

 

 ただ、この法の原則を引っ張り出して安倍政権を批判する人には、どうしても知っておいてほしいことがある。これは法一般の原則であるから、他の法にも当然のこととして適用される。

 

 例えば、在日米軍に対する思いやり予算を規定した「特別協定」がある。これは、日米地位協定で、軍隊の維持に関わる費用はアメリカ側が持つが、土地の提供に関する費用は日本側が持つとなっているのを事実上変更し、土地の提供以外の費用(施設の建設など)まで日本側が持つようにしたものだ。

 

 これに対して、一部から、「地位協定の原則に対する違反だ」として批判する声がある。しかし、これも地位協定という「一般法」に対して、特別協定という「特別法」をつくって対応しているものであって、特別協定が違法だというものではないのだ。

 

 だから、特別協定で決められることを批判するのは当然としても、それを「違法」であるかのように批判するのは間違いだということになる。もうすぐ特別協定の五年間の期限が切れて、新しい地位協定をつくる交渉が開始されるので、批判の仕方には注意しておかねばならない。