そうなんですよ。本日から10日ほど、無差別爆撃跡地の博物館を訪ねるツアーで、ドイツのドレスデン、スペインのゲルニカに旅立つ予定でした。その後、プライベートでマドリード、バルセロナ、ミュンヘンも回る予定でした。

 

 ツアー中止が決まったのは2月13日。同行の安斎育郎先生からのアドバイスがあったからです。いまから見ると当然の決定でしたが、当時は、高齢者が多いから不安を持つ人は多いだろうねとは思っていましたが、率直に言って、中止までするのかという気持がありました。

 

 そこを切り崩したのが安斎先生なのですが、いまメールを読み返してみると、「さすがだなあ」と感嘆せざるを得ません。まず、同じく無差別爆撃の旅で中国の重慶に行かないことを決めたあと、2月10日に以下のメールがありました。

 

 「重慶の旅は残念でした。その後も新型肺炎流行の着地点が見えない状況が続いています。ドレスデン・ゲルニカの旅もイケイケどんどんではないのでしょう。ウイルス感染の問題だけでなく、マスクをしたアジア系の人間に対する偏見や差別も欧米社会では出ています。福島調査を70回続けてきた立場からは、「事態を侮らず、過度に恐れず、理性的に向き合う」という原則がそのまま現在の新型肺炎にも当てはまると感じますが、放射線についても科学だけでは有効性は限られており、心理的・社会的影響の方がはるかに解決困難な問題です。きっと新型肺炎も同じで、アジア人は汚染源という偏見を拭い去るのはそう簡単ではないでしょう。

 

 今日、9月の第10回国際平和博物館会議のプログラム委員会で、国際会議中止の可能性についても議論しました。」

 

 最後にある国際平和博物館会議というのは、今年の秋、京都と広島でやろうと安斎先生がイニシアチブをとって3年前から進めてきたものです。このメールの直後に中止を最終決断したのです。そして、これもいまにつながる大事なことですが、中止の決断と同時に、ネットでの会議開催を決定したのです。これもさすがです。以下のように考えられたそうです。

 

 「「不確定性のもとでの意思決定」の問題は統計的決定理論の問題の一領域だが、「計画を実行したときに、憂慮する事態が起こった時のリスクとベネフィット」、「計画を実行したときに、憂慮する事態が起こらなかったときのリスクとベネフィット」、「計画を中止したときに、憂慮する事態が起こったときのリスクとベネフィット」「計画を中止したときに、憂慮する事態が起こらなかったときのリスクとベネフィット」などを総合的に考慮するとき、3年間にわたって準備してきた国際会議だが、場合によっては中止もやむを得ないと考えている。」

 

 こういうときに、どんな判断で、どんな意思決定をすべきか。たいへん参考になると思ったので、一部を紹介させていただきました。