おわりに

 

 冒頭で紹介した『日韓が和解する日』の結論が見えずに苦悶していた時期、一九六五年の日韓基本条約が国会で審議された際の膨大な会議録に目を通しました。そこで目にしたある政府の答弁が、「これで先が見えた」と思わせてくれました。

 

 一九六五年の日韓条約を結んだ一方の当事者である日本側は、植民地支配の違法性をあいまいにした決着が、やがて大きな問題を引き起こすのを自覚していたのです。椎名悦三郎外相(当時)が、国会で「(違法性をめぐる)両国の利害が、今後条約発効後に衝突するというような場合」が想定されるので、その際は解決しなければならないと答弁していたのです。

 

 「それから『もはや無効』というのは、一体、当初から無効であったのか、それとも、かつては有効であったか、いつから無効であるかというような点が御質問の点だと思います……。これも聞くところによると、韓国の言い方とわれわれの主張と食い違うようでありますが、これらの点について、もし実際問題として、両国の利害が、今後条約発効後に衝突するというような場合には、十分にこれを解決する自信を持っておるわけであります」(六五年一一月一九日「第五十回国会参議院会議録」第八号、自民党の草葉隆圓議員の質問への答弁)

 

 もちろん椎名氏は、日本側に有利に「解決する自信」を表明しているわけです。しかし、植民地支配が違法か合法かが問題を引き起こすこと、その際、少なくとも解決のために交渉しなければならないという自覚は持っていたのです。

 

 それならば、どのような解決になるかは別にして、条約の解釈(違法か合法か、無効か有効か)を一致させる交渉を行うことでは、日本と韓国は合意できるのではないでしょうか。まずそこで合意し、交渉の最中に日本企業の資産凍結をしないと韓国側が約束すれば、交渉を開始することは可能です。最終的な決着までは遠い道のりになることが予想されます。それでもその道は、両国が議論と対立を繰り返すものであっても、共に歩める道となる可能性があるのではないでしょうか。(了)

 

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 さて、明日からは何を書こうかな。過去に紙の雑誌に書いた長大なものでもアップしようかな。