以下は推測です。国際刑事裁判所(ICC)規程を批准するに際して、内閣法制局や法務省はビビったと思うんです。

 

 ICC規程って、ジェノサイドとか侵略とか、人道に対する罪を裁こうというものですよね。日本では外務省から国際司法裁判所の判事になった小和田さんなんかが熱心に推進していました。アメリカなどが後ろ向きな中で、あれだけ日本が目立ってしまったので、批准しないという選択肢はなかったでしょう。

 

 けれども、日本は、条約を批准するに当たって、これまではわりと律儀にやってきました。それに対応する国内法を整備しないかぎり、簡単には批准をしなかったのです。

 

 だからこそ、同じ罪を対象にしているのに、ジェノサイド条約は批准していません。集団の全部または一部を破壊することを意図して集団殺害を行うという、その定義が国内法では難しいということが理由です。実際、日本の刑法にはそんな規定がありませんし、もし刑法に規定を入れようとすると、大騒ぎになったと思います。だけど、ICC規程は日本が先頭に立ったので、批准しない選択肢はない。

 

 真剣に検討しようとすると、一昨日に書いたことですが。例えば外患誘致罪と比べて、どちらを重い罪にするかを決めなければならないのです。国際社会はジェノサイドがいちばん重大だと認識しているのに、日本の刑法は外国勢力とはからって日本を攻撃させることがいちばん重大だと認識している。さあ、どうするか。

 

 侵略だって同じです。刑法では、ICC規程では侵略がいちばん重大な罪なのに、刑法では、逆に、日本に対する侵略を助けるのをいちばんの罪にしている。さあ、どうするか。

 

 結局、そんな議論を開始したらキリがない、収拾が付かなくなると、法制局や法務省は思ったのではないでしょうか。それで、いずれにせよ殺人罪は適用できるのだからとして、「ほとんど裁ける」という答弁で乗り切ろうとした。

 

 だけど、日本がジェノサイドの罪を犯すかもしれないから、それを罰しようって、真剣に国民の間での議論が必要だと思います。その議論抜きに、あるとき、罪を犯したからといって裁くのでは、心の準備ができていません。

 

 まあ、この会は、そのための議論を促そうという意味あいも持っていると思います。そういう国内法は6か国ほどで整備されたそうですから、調査団の派遣なんかもしなければなりませんね。(続)