現在、パックン(パトリック・ハーラン)が監修する本を、ある編集プロダクションに依頼してつくってもらっている。リンカーンのあの名演説とか、多くの人が知っている英語の文章をとりあげ、解説する本である。小学校からの英語教育が始まるということで、テキストのようなものは出ているけれども、小学生であってももっと気持がワクワクするような文章を提示することで、より関心が高まるのではないかという判断である。

 

 その中で、有名人の演説というだけでなく、よく知られている文章も取り上げようかという提案があった。ユネスコ憲章の前文、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」だとか。当時、マルクス主義者には評判が悪かったものだが、いま否定する人はあまりいないだろう。

 

 そこに憲法9条をくわえる構想がある。パックンはその英文をどう読むだろうか。

 

 9条2項は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と明確に規定していて、それだけでも自衛隊は違憲だということになる。くわえて、よく知られているように、英文では「その他の戦力」は英語ではother war potentialとなっているのだ。

 

 そのため、憲法制定議会では、戦争する可能性のあるものがすべてダメというなら、軍隊を持てないだけではなく兵器をつくる工場もつくれない、などと真剣に議論された。当時はそれが常識であった。

 

 現在、政府は一貫して、「国会に提出され、審議され、採択されたのは日本文だけだ。英文は参照するかしないかという以前に審議の対象となっていない」という立場である。other war potentialなどは問題外といいうことだ。

 

 けれども、憲法制定過程においては、実際は英語が先にあり、その翻訳版が現在の日本国憲法であることは常識である。また、マニアックな話になって申し訳ないが、当時は占領下のため、国会で決まる法律など公文書はすべて日本語と英語でつくられ、憲法の英語版も官報にあたるNational Gazetteで掲載、公示されていた。英語版の意味はきわめて重たいのである。

 

 一方、パックンは、軍事力の有効性は否定しないだろう。9条をどう読んでくれるのか。ワクワクしますね。