気づきませんでした。今年の初め、法学館憲法研究所の「憲法関連論文・書籍情報」で紹介されていました。たいへん深く読んでくださっています。ありがたいことです。以下です。いまから地元の2.11で講演してきます。

 

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 著者いわく、本書は「日韓関係がこじれている原因はすべて日本のかつての植民地支配を反省しない現在の日本政府にあり…日本は韓国の主張に全面的に従うべきだ」という考え方、そしてこれとは対照的に「日本の植民地支配も戦後の責任の取り方も非の打ち所のないものであって、韓国の主張はすべて間違っており、日韓関係の断絶も辞さない」という考え方、いずれかの立場を採る人にとっては「不向き」な内容です。「極端な考え方に固執していては、そもそも和解のための議論は成立しない」というのが、日韓和解に向けての著者の一貫した姿勢なのです(「まえがき」参照)。

 

 戦後最悪とも言われる日韓関係については、とりわけ「徴用工問題」を契機としてすでに報道や数々の著書で指摘されています。その中には日韓の歴史問題に関連する一連の判決が示してきた論点や、国家間がこれまで築いてきた政治的関係性の成果および限界等を等閑視し、表面的な知識や思い込みに依拠したエモーショナルかつ扇動的な内容も少なくありません。

 

 本書の著者はこのような事態を問題視し、日韓断絶の背景と原因を丹念かつ冷静に分析しています。その一つの手がかりとして、本書においては2018年の徴用工大法院判決の読み解きがなされ、本判決で提示された法的・政治的な論点がわかりやすく整理されています。これを通じ、報道等を通じて一般に耳にする事態と現実とはかなり距離があることがわかります。こうした「ズレ」を明らかにし、問題の所在を丁寧に追うことが重要だと改めて確認できるのです。

 

 さらに、日韓をとりまく国際関係を歴史的にひも解きつつ、日韓が衝突する個別的な問題を洗い出しながら、どの点で、そしてどのような形で両者が歩み寄れるかということが示されているのも、本書の大きな特徴の一つです。互いが主張する論理の当不当を言い合うのではなく、新たな対抗論理を持ち合いしぶとく交渉を重ねることが、日韓関係について必須であると本書を通じ深く理解することができます。本書はまさに「この問題を解決したいという意欲だけは誰にも負けないつもりだ。」(「あとがき」参照)という著者の想いが伝わる書籍です。先述の通り、法的にも政治的にも冷静かつ複合的な議論の蓄積が求められる問題であるにもかかわらずこうしたアプローチが軽視される状況において、本書はこの現状を打開し日韓和解へと進むための有力な一冊だと言えるでしょう。