トランプさんが大統領になって最初の年(2017年)はシリア空爆で始まった。一期目最後の年がまたもや武力行使で始まるとは驚くより他なかった。

 

 この武力行使の国際法上の問題が議論されているので、それに少し参加してみたい。報道を総合すると、トランプさんは国際法上は二つの根拠を挙げているようだ。一つは、イランによるアメリカ人殺害計画があって、それを阻止するための自衛の行動だったというもの。もう一つは、イラクにその殺害計画を阻止する能力がなかった(だからアメリカが成り代わって遂行した)というものだ。

 

 まず、あまり聞き慣れないだろうから、後者から。そういうものが根拠になり得るのだろうか。

 

 これは、アメリカの武力行使に対して、それが行われたイラク政府が激しく反発しているので、それに対応して出てきた口実である。通常、ある国に滞在している外国人がいるとして、それを保護する使命を持っているのは、滞在国の政府である。イラクに政府にその使命を果たす能力がないから、アメリカが成り代わってやったのだということだ。

 

 これって、平和主義者には評判が悪いと思うが、国際政治ではよく使われた口実でもある。いくつか事例を挙げよう。

 

 1968年、イスラエルの民間航空機がパレスチナ武装集団による攻撃を受けた際、アメリカは武装集団の基地があったレバノンに対する武力行使を行った。理由は自衛である。レバノンが武装集団に基地を提供していたことも口実であった。72年、82年にも同様のことが繰り返される。

 

 しかしその際、国連安保理は、イスラエルの軍事行動を批判する決議を全会一致で採択した。全会一致ということはアメリカも賛成したということだ。安保理での議論では、一つの民間機への攻撃をもって国連憲章が自衛の要件とする「武力攻撃」とはみなせないことなどが議論されている。

 

 一方、76年にウガンダの空港において、ハイジャックで捕まった捕虜の釈放を掲げてイスラエルが武力を行使した際、安保理に批判決議が提出されたが、採択されなかった。アメリカが反対したのである。アメリカが安保理で理由として表明したのは、領域国であるウガンダに捕虜を救出する意思と能力がない場合、必要最小限度の武力行使は認められるというものだった。

 

 今回のイラン司令官殺害はこれに近いかもしれない。まあ、そういう点では、トランプさんといえども、過去の事例をまったく無視してやっているわけではないということだ。ちゃんと国際法上の問題をどうすり抜けるかと考えている知恵者はいるのだろう。

 

 写真は、この問題も伊勢崎賢治さんが話題にした昨日のジャズヒケシ。司会でしゃべっているのがわたしです。(続)