韓国の文喜相国会議長が徴用工問題のための解決法案を準備しているとされる。先日、朝日放送ラジオに出演した際、この方のその時点での発言について質問され、「自国の大法院判決を読んでいないのではないか」とコメントしたが、その後の実際の動きを見ると、危惧した通りになりつつある感じだ。

 

 これについて、日本側の日韓議員連盟筋がからんでいるという報道もあるし、日本政府も「これならば」と言っているかのような報道もある。もしそうならば、それは、破綻することを見越し、責任をすべて韓国側になすりつけるための権謀術数だとしか言いようがない。

 

 だって、韓国と日本の企業が自発的におカネを出して、判決で求められた賠償に相当する額を支払っていくものだとされるが、そのやり方って、大失敗した「アジア女性基金」の再来だ。それもかなり程度を低めた再来である。

 

 「アジア女性基金」は、日本政府が閣議決定にもとづいて設立し、運営のためにかなりの税金を注ぎ込んだのに、「民間基金だ」「政府の法的責任を回避している」と非難されて消滅していった。今回報じられているものは、いまのところ、そういう日本政府の関与も日本企業の関与もいっさい想定されていない。

 

 文議長の善意は疑わない。そして実際、判決で確定した額がもらえるということで、原告の大半は喜ぶのだと思う。

 

 しかし、「アジア女性基金」のおカネは慰安婦の3分の1が、15年の日韓政府合意に基づくおカネは慰安婦の7割が受け取ったのに、「被害者中心ではない」というのが韓国の国民の総意とみなされ、破綻していった。市民団体が求めた「違法性と犯罪を日本が認定すること」に達しないものは、韓国では受け入れられないのである。

 

 今回の案も、大法院判決の核心である「植民地支配の違法性」について、何の言及もない。そんなものを徴用工はともかく、市民運動が認めるはずはない。

 

 もし、そういうものがすすんだら、日本企業がおカネを出して、「ちゃんと韓国側の解決案の乗ったよね」という日本の世論が形成される。ところが韓国側が結局はこの解決策を拒否して、日本の世論は「またもや韓国がゴールを動かした」「もう相手にするな」となっていくことは必定である。

 

 「植民地支配の違法性」という難問にどう挑んでいくのか。韓国でも日本でも探求しなければならないことはここにある。難問に背を向けた解決策はない。