渡邊隆さんといえば、陸上自衛隊の元最高幹部(陸将)。自衛隊を活かす会のシンポジウムにお呼びし、お話を伺う度に、「この方の安全保障の本をつくりたい」と考えていた。それがようやく実って、年内に刊行の運びである。

 

 人生そのものが、現在の自衛隊を象徴している。防衛大学校に入った年(1973年)、自衛隊を違憲とする裁判所の判決が出て衝撃を受ける。自衛隊がはじめてPKOに参加することになったカンボジアで初代の大隊長を務め、国民の期待と反対との中で翻弄されながら責任感を持って仕事をしてきた。退官前の最後の仕事は、2011年の3.11直後の東北方面総監である。

 

 そういうなかで現場で体験し、模索してきたものを凝縮した本になっていると思う。これまで左翼の世界では、「安全保障」という言葉を使うだけで「平和」の対義語とみなされ、議論すること自体が拒否にあってきた。この本ではじめて安全保障論が普通の国民のものになると感じる。渡邊さんも「あとがき」で次のように書いておられる。

 

 「冷戦時代には、自分と違う考えを持つ人々との間で建設的な議論することは非常に難しく、中には会話そのものが成立しないようなこともありました。しかし、冷戦の終結とともに我が国の安全保障は、議論の構図がイデオロギーから具体的な方法論に移りつつあるように思います。その議論の中心にあるのは、「何が正しいのか」というよりは、「何が問題なのか、それを解決するためにどのようなオプションがあるのか」、「その中で最適なオプションはどれなのか」という「選択」が主体になっています。」(本書「あとがき」より)

 

 チラシに本書の特徴を列挙している。ここでも書いておく。

 

初代PKO大隊長など幹部を歴任した自衛官でしか書けない事実 

素人の大学生向け講義が基礎、 マニアの議論とは一線を画す 

外交や国民の選択でしか解決できない問題を明確に打ち出す

PKOと周辺有事でシナリオ研究投稿を読者に促し、筆者が回答 

全講義でふんだんに地図を使い、思考力を培う分かりやすさ