今年から自宅勤務を選択したので、生まれてはじめてのことだが、NHK朝の連ドラを通しで見ることになった。これまでも「あまちゃん」など注目したものは、再放送も含め見逃さなかったが、朝に見たのはこれがはじめてだったのだ。

 

 途上で京アニの事件があって、それ以降、アマゾンやNetflixでアニメを見るようになったこともあり、タイミングも良かった。アニメ草創期の関係者の意気込みが伝わってきて、大変楽しい時間を過ごすことができた。ありがとうございました。

 

 ところで、ネットで評判を見ていると、主人公の働き方や人生観をめぐっては、賛否両論が渦巻いているようだ。仕事をしながら子どもを育てるという、現代の若い世代にとっても切実な課題だけに、それぞれ悩みは多様で、「こんなものじゃない」みたいな意見が出て来るのだと思う。子育て中、病気にかかった子どもは必ず自分で病院に連れていくという決意をして最後まで100%貫いた私にも、それはよくわかる。

 

 けれども、ネットで議論されている「なつぞら」の違和感は、私には気にならなかった。それは、舞台となった当時の東宝のことを知っているからかもしれない。「なつぞら」でも、主人公の夫が労働組合の活動家として登場してくるし、社長は左翼嫌いだと描かれ、それらしい言葉を吐くのだけれど、朝ドラの性格上、労使の対立はあまり深刻なものと描かれないので、普通の人には伝わりにくい。

 

 戦後すぐの東宝争議って、私が生まれるだいぶ前だけど、知っている人にとってはすごく有名。「空には飛行機、陸には戦車、来なかったのは軍艦だけ」と東宝争議が言われていたというのは、労働運動に関心を持った当時、何回か聞かされた言葉だ。ウィキペディアを見ても、こんな記述が出てっくる(米軍占領期のことです)。

 

 「アメリカ陸軍第1騎兵師団司令官ウィリアム・チェイス少将は、カービンで武装したアメリカ軍MP150名、歩兵自動車部隊1個小隊、装甲車6両、M4中戦車3両、航空機3機を率いて砧撮影所を包囲した。これらの部隊は、H.F.T.ホフマン代将指揮のアメリカ軍地上部隊だった。チェイスは航空機から指揮を執った。……

 警視庁予備隊部隊が、戦車に先導されて砧撮影所正門前に展開し始めた。亀井文夫が、砧撮影所正門前の予備隊に向かって、「正義は暴力によっては踏みにじられない」と書いた紙を掲げた。その後、従組は、軍に包囲された以上、力での抵抗は不可能と判断し、職員会議を開いて仮処分の受け入れを決定した。」

 

 「なつぞら」の時代は、これより少しあとのこと。労働組合に参加していた多くの俳優や監督が会社をやめていったけど、労働者を弾圧するため、米軍や自衛隊にまで頼るという会社の体質がその後も残っていたから、子どもを産んだ女性が働き続けることが、いま想像できる以上に難しかった。そんな会社にしがみつくより、外に出て新しい会社を興すことがアニメ発展のためには不可欠だった。

 

 そこがわかると、「なつぞら」のことは何十倍も理解できるのだと思いました。みなさん、ご苦労様でした。