過去の植民地支配を犯罪とみなして賠償させることの難しさは、罪刑法定主義の原則に反するからだ。通常、ある行為を犯罪とするには、その法律ができた時点から有効になる。過去の行為まで犯罪として問うことができるようになったら、政権が変わった際、前の政権の行為を罪とする法律をつくれば、好き放題に粛清さえ可能になってくる。こういう考えは法律になじまない。

 

 その例外として認められている唯一のものが、戦争犯罪と人道犯罪である。1968年の国連総会で採択された「戦争犯罪及び人道に反する罪に対する時効不適用に関する条約」がそうである。1968年の時点になって、第二次大戦中のナチスによる人道犯罪には時効を適用しないとしたわけだ。

 

 徴用工も人道犯罪だというのが韓国の主張である。しかし、この条約で定義された人道犯罪というのは、あくまで「集団殺害」に匹敵するものである。常識的に徴用工はアウトだ。

 

 しかも、これは条約とは銘打っているが、まだ国連総会決議にとどまっている。採択時に反対した国が7つ、棄権した国が32、採決に加わらなかった国が23もあって、まだまだ全世界を拘束する法律としての資格は獲得していない。日本も憲法の罪刑法定主義の考えからして問題があるとして棄権した。

 

 国ごとに見ると、さすがにもともとがナチスの罪を意識した条約だから、ドイツはこれを適用している。フランスも似たような名前の法律をつくり、ナチスの罪に対して適用してきた。

 

 しかし、フランスの場合も、適用するのはナチスだけなのである。フランスがアルジェリアなど植民地に対して犯した人道犯罪には適用されないことになっている。

 

 徴用に対して賠償を求める国際法はない。植民地支配に対して賠償を求める国際法もない。

 

 そういうなかで韓国大法院が求める賠償を実現しようと思えば、国際法を劇的に変革しなければならない。韓国の文在寅大統領には世界を相手にそれだけのことをやり遂げる覚悟があるのだろう。