文在寅大統領が日本企業に賠償を求めるなら、国際法を変える必要がある。植民地支配は違法だったから、それと結びついた徴用工の労働に対して賠償義務があるというのが韓国大法院の判決だかから、植民地支配は犯罪行為だったという国際法を確立する必要がある。

 

 国際法というのは世界で通用している法規を変えるということだ。韓国の裁判所の判決があったから変わるものではないし、日本政府にも変える力はない。世界が変わらなければならないのだから、そう簡単なことではない。

 

 しかし、国際法が変わったという前例は無数にある。だから、文在寅大統領は、日本を相手にしている努力の100倍程度は、世界を相手にしてあきらめずに挑戦すべきであろう。

 

 例えば、国際法の形成の上で大事な役割を担っている機関の1つとして、国連総会のもとにある国際法委員会がある。34人の国際法専門家が日夜、国際法を確立作業をしている。「海洋法条約」「条約法に関するウィーン条約」なども国際法委員会がつくったものだ。

 

 あまり話題になることはないが、ここが2001年までに「国際違法行為に対する国家の責任」に関する条項案を採択した。「国家責任条約」と称されることが多い。代表的な違法行為として、侵略、植民地支配、奴隷制度とジェノサイド、環境の重大な汚染などを例示している(ただし、過去のこれらの行為を裁くものではない。あくまで現在形だ)。

 

 いま、これらの行為が違法であることは誰も疑わないが、国際法委員会が国家責任条約の議論を開始した1947年の時点では、こうしたものが採択されるとは予想されていなかった。なぜなら、当時の国際社会で「国家責任」に反する行為とみなされていたのは、欧米列強の海外にある資産(企業など)が、その地域の国家によって国有化されたり没収されたりすることであった。次々と植民地が独立していくなかで、海外企業が没収されるのを防ぐため、「国家責任」の概念が議論されていたのである。

 

 それなのに、なぜ、侵略や植民地支配が違法行為とされるようになったのか。直接の理由は、国際法委員会の構成の変化である。

 

 設立当初、国際法委員会は17人で構成されていた。それは国連そのものの構成を反映して、ほとんどが欧米列強の国際法専門家であった。だから、そんな議論が可能だったのだ。

 

 しかし、植民地が次々と独立し、国連に加盟するようになると、国際法委員会も変わらざるを得なくなる。現在は、アフリカ8、アジア7、ラテンアメリカ6、東欧3,西欧その他が8が基本である。これにアフリカまたは東欧から1、アジアまたはラテンアメリカから1が追加される。国際法なのだから、政治体制、地域、人種その他の違いを超えて、すべての国家が服するものなので、こういう構成が求められるわけだ。

 

 いずれにせよ、たとえ時間がかかっても、国際法は変わるものだ。とはいえ、過去の植民地支配を犯罪行為とみなす国際法はまだ形成されていない。それには、それなりの理由があって、文在寅大統領はそこに本当に挑戦するのかが問われている。(続)