まあ、『日韓が和解する日』という本を書こうというのだから、いつかは目を通さなければならないと思っていた。まだ読み始めたばかりだが、まず、国会の調査室がまとめた概要だけは読み終えた。概要といっても、1000ページ近くはあるかな。

 

 予想通りだったこともあれば、予想していなかったこともあった。読んでみるものだね。

 

 まず、この長い審議のなかで、条約や協定に日本の植民地支配の反省が書かれていないという趣旨の質問をした人は、「皆無」であった。これは予想通り。

 

 自民党はもちろんだが、たとえば社会党。本会議で反対理由を述べているが、それを列挙すると、①北朝鮮を認めていない、②李承晩ラインの問題、③竹島問題である。共産党も川上貫一が反対理由を述べているが、①反共軍事同盟である、②韓国は軍事独裁である、③自衛隊を朝鮮半島に出動させる、④自衛隊の人民弾圧を進める、ということだ(参議院本会議の野坂参三も同じ)。この基本線は本会議から委員会に審議が移っても変わらない。

 

 要するに、当時、日本の植民地支配の反省が大事だという見地から問題を見ていた人は、ほとんどいなかったということである。いまから見ると信じてもらえないかもしれないが、それが真実なのである。公明党の黒柳明だけがそういう見地から質問をしているが、これは後日紹介する。

 

 社会党の石橋政嗣が、日本側が請求権を放棄し、韓国の請求権だけに対応した条約になった問題を追及している。その論理を補強するため、外務省が出している雑誌「世界の動き」から以下のような引用をしている。

 

 「日本人が朝鮮に残してきた財産は、はるばるわが国から渡朝して30余年の長きにわかり粒々辛苦働いた汗の結晶にほかならない。……在韓財産の一切合切をフイにした上に、さらにこのような巨額を支払うということは、わが国民の決して納得しないところであろう」

 

 いまこの引用を見ると、社会党の石橋のことだから、この雑誌で書かれている外務省の見解を批判するために引用しているのだと思うだろう。しかし違うのだ。石橋は引用をしたあとで、次のように言う。

 

 「この外務省の見解こそ現在の日本国民の気持ちではないか」

 

 そうなんだよね。日本国民はずっとそういう気持ちで暮らしてきたのである。だから、それに加えて現在、徴用工が「それでは足りない」と言ってくることに対して、非常に大きな違和感を抱くわけである。

 

 徴用工問題を考え、論じるにあたって、そういう歴史の現実を無視してはいけない。私はどうやって韓国側の言い分を日本側が理解してあげるのかを真剣に考えているのだけれど、何十年にもわたってこうしてつくられた国民の意識、気持ち現実を無視しては説得力のあるものにはならない。(続)