『日韓が和解する日』の執筆、少しメドがたってきた。8月には書き終わるかも。頭はそのことで一杯なので、本日も記事は関連したものになる。

 

 朝鮮半島から日本に来た徴用工の人々は、いったいどんな労働実態にあったのか。徴用工裁判に関わる問題で何らかの判断を下す上で、これは知っておかねばならない事項である。

 

 

 一方では、当事者の証言として、強制的に連行され、日本人労働者とは違ってムチで打たれながら働かされ、逃亡しないよう鉄格子のある部屋に監視付きで住まわされていたなどの告発がされている。とりわけ、この間、焦点となってきた軍艦島(正式には端島)でのそういう実態告発は多い。

 

 他方で、同じ島で働いていた日本人の当事者から、そういう実態はなかったとの批判も少なくない。熟練度が低いからいきおい賃金は低くなるが、それは日本人でも熟練度が低ければ同じことだし、朝鮮半島の人々だけ特別に監視がついた事実もないなどである。

 

 けれども、どちらの証言が正しいかについては、いま問題になっている徴用工裁判にかかわって議論するのは不要である。なぜなら、徴用工裁判では、そういうことは問題になっていないからだ。強制連行されたとか、日本人と違った苦しい扱いを受けたとか、そういうことはまったく判決の根拠とされていない。賃金の未払いがあったとか、殴られたことがあるとか、一部にそういう論点はあるけれども、全体として見れば、当時の労働そのものが人道に反していたというものである。それが違法な植民地支配と結びつくので、賠償せよという論理なのである。

 

 したがって、賠償をもらうために徴用工がありもしない嘘をついているとの批判は、少なくとも今回の裁判をめぐって通用する論理ではない。同時に、徴用工を支援する人々が、たとえ目的は善意であったとしても、強制連行や差別的な労働を持ち出すのも、韓国大法院が賠償を求める論理とは違っており、かえって迷惑になるかもしれないことを自覚しなければならない。

 

 大事なのは当時の正確な労働実態である。それが植民地支配と結びついたとき、賠償の根拠になるかということである。