もう30年だよね。事件直後、欧米諸国は経済制裁に動いたけれど、次第に緩和してきた。日本政府はいち早く制裁から抜け出ていた。

 

 経済制裁をゆるめる動機というか、いいわけとして使われたのはどういう考え方だったか。中国が経済的に豊かになれば、やがては自由や民主主義を志向するようになるのではないかということだった。

 

 一時期、そう思わせた時期もあった。しかしいまや、そういう動きは壊滅的なダメージを受け、経済の発展と独裁が手を携えて進行する事態になっている。

 

 欧米諸国による制裁解除の決め手となった豊かさと独裁が相容れないという考え方は、それまでの歴史の教訓の1つではあった。2種類の教訓があったと思う。

 

 1つは、西欧で資本主義が発展する過程である。産業が発達する中でブルジョアジーが生まれ、さらにもうけを増やすためには、封建的な桎梏から抜け出さねばならないと気づいたことである。資本の活動の自由のために、政治の自由が必要とされたわけだ。

 

 もう1つは、旧社会主義諸国の崩壊だ。資本主義と社会主義が共存するなかで、自由な政治体制のほうが豊かだと社会主義国の人々が気づかされた。それで社会主義が崩壊していったのである。

 

 中国ではそのような動きはまったく起きてこない。本来なら政治的自由を求めたはずのブルジョアジーや中産階級は、独裁国家であることを利用して発展している。いま問題になっているHUAWEIなどはその代表例である。アメリカの制裁に対して「ただの民間企業」などと弁解しているけれど、そうでないことは誰もが知っている。

 

 別の角度で言うと、中国共産党は、これまで存在してきた世界各国の共産党と違って、市場経済の利用方法を身につけたようだ。独裁国家であるほうがもうけるということを実践で示しているわけである。独裁政権が世界経済の命運を握るという、グローバル経済出現以前ではかつて考えられなかった事態である。それがどういうものになるのか、想像もできない。トランプでなくても心配が募るだろう。

 

 ここから逆に、中国で自由や民主主義が少しでも生まれるために必要なことは何かが見ててくるのではないか。それは、独裁国家が続く限り中国経済に発展がないことを、どうやって実践で示していけるかだ。

 

 トランプのやり方も、ある意味、そういうものの1つだろう。中国が独裁的な国家権力を背景に民間企業を通じて世界的な覇権を握ることを許さないということなのだから。

 

 トランプのやり方を肯定するつもりはない。しかし、中国の独裁を終わらせることと、世界経済を維持、発展させることと、その両立の道を見いだせない限り、中国が世界の不安定要因となることに変わりはないように思える。

 

 ということで、天安門事件の当日の詳細な体験記や中国共産党の統治の正統性の問題を論じたのが、『奥深く知る中国──天安門事件から人々の暮らしまで』だ。写真は天安門事件数日前、天安門に向かう北京外国語大学の学生の様子である。30年後に本書に体験記を書いた名和又介さん撮影。体験した人にしかわからないリアルさを捉えていただければと思う。

 

 初出時、記事の一部の事実誤認がありました。田中さん、ご指摘ありがとうございました。本日の「赤旗」主張を含め、この30年来の日本共産党の中国論には、社会主義とは何か、社会主義を掲げる勢力とどう付き合うのか、その他大事な論点があると思いますので、そのうち本としてまとめるか、長い論評をしたいと思います。

https://www.amazon.co.jp/奥深く知る中国―天安門事件から人々の暮らしまで-筧-文生/dp/478031030X/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&keywords=奥深く知る中国&qid=1559550441&s=books&sr=1-1