そこに国家がなくても、そこを植民地化すれば違法である。これが現在の国際法の到達だ。

 

 しかも、朝鮮半島の場合、そこに国家があった。日本と朝鮮半島の諸国家は、千数百年もの間、戦争をしたり、友好を保ったり、国家と国家として普通の関係を築いてきた。

 

 条約を結んだのも、相手国が条約を結ぶ対象である国家だという認識があったからだ。欧米流の植民地合法論というのは、建前では、そこには国家がないから、最初に占有して実効支配した国のものになるというのであるが、朝鮮半島はそこが違ったのである。

 

 日本が朝鮮半島を植民地にすると、欧米列強は簡単にそれを認めた。それは、欧米流の植民地合法論というのが、やはり建前に過ぎず、そこに国家があろうがなかろうが実力で奪ったものの勝ちというのが、じつは本音の考え方であったことを示す。

 

 いずれにせよ、植民地支配が終わったあと、韓国側から違法論が出て来る素地はあった。そこが解決しない限り、この問題は終わらないと思われる。

 

 さらに、他の植民地諸国との違いは、宗主国に対する勝利体験のなさである。日本の植民地支配は、1945年8月15日をもって、あっけなく終わったということだ。

 

 他の植民地諸国は、ほとんどがいわゆる独立戦争を戦ったのである。それに勝利して、宗主国を追いだし、主権国家になっていった。何百年かの支配の恨みをはらせたわけだ。

 

 韓国の場合、それがない。支配された苦しさ、辛さを日本にぶつける場がなかった。いや、戦後すぐ、日本と外交交渉でもできていたなら、その交渉がそういう場になったかもしれない。しかし、日本と同様、アメリカに支配され、北朝鮮と中国に対する前線国家と位置づけられ、日本への恨みよりも北朝鮮の脅威に対抗するほうが大事という時代が何十年も続いた。

 

 いま、その戦後の構図が変わったわけだ。北朝鮮の脅威がたいしたことがないと自覚してみると、これまでなおざりにしてきた植民地支配の清算をやろうということが国民合意になった。それで21世紀になって、過去の問題を清算するいろいろな法律が出来て追及が進んできた。

 

 それがいま、国内だけでなく対日本に及んでいるわけだ。まあ、率直に言えば、そういう国内事情の変化を理由に、すでに合意した日本との条約を軽視していいのかという問題はある。ただ、われわれがこの問題を扱うに当たって、そういう国内事情があることは理解していたほうがいいだろう。

 

 まんざら日本に無縁の国内事情と言えない面もある。韓国が反共独裁国家だったおかげで、日本は「自由」を満喫できたというか、韓国までが共産主義国になっていたら、アメリカは日本をそれに対抗する前線国家と位置づけ、戦後の韓国のような政治体制を押し付けていただろうだし。