あと1か月もしないうちに、あの6月4日がめぐってくる。早いものだなあ。

 

 当時、私は共産党の国会議員団事務局というところで仕事をしていた。ちょうと7月に東京都議会議員選挙が行われることになっていて、私は八王子の選挙区に派遣されていたのである。

 

 事件は衝撃的だった。公明党などは、「共産党の選挙カーを見たら戦車だと思え」と宣伝を強めていた。実際、そういう宣伝が功を奏する世の中の雰囲気だったのである。

 

 だから、私の仕事のほとんどは、天安門事件そのものと、それを引き起こした中国共産党をどう批判するかに集中していた。そこで納得しない限り、選挙で票を入れてもらえないし、そもそも共産党員も選挙をする気が起こらないからね。

 

 暴力で国民を鎮圧するなど共産主義の考え方とは正反対であること、したがって中国共産党は共産党の名に値しない政党であること。その他、思いつく限りのことを文書にし、広げていった記憶がある。そういうことが、日本の共産党の誇りだった時代というものが、かつては確かに存在していたのだ。

 

 今朝、NHKのニュースを見ていたら、再び中国で学生運動が興隆しているという報道がされていた。しかもその運動は、格差が広がる中国の現状はマルクス主義とは正反対であるとして、マルクス主義をみずから名乗っているらしい。

 

 新しい傾向だと思う。私だって、もし中国に生まれ、マルクス主義を勉強していたら、中国共産党の掲げるマルクス主義は偽物だという見地に立っていただろうと感じる。弊社の出している『若者よ、マルクスを読もう』(内田樹×石川康宏)は全巻が中国で翻訳されて出版されているのだけれど、それを読んだ若者も運動に加わっているかもしれない。

 

 さて、出版社としても天安門事件30年を黙って見ているわけにはいかない。ということで、以上のような私の評価と同じではないが、今月末、『奥深く知る中国──天安門事件から人々の暮らしまで』を出版する。

 

 事件当時、中国に在住していて、事件をリアルに体験した研究者の体験記は読ませる。中国共産党の統治の正統性を問うた論考も秀逸である。同時に、中国の人々の暮らしなども含め、まさに「奥深く知る中国」になっている。月末には書店に並ぶので、是非、手にとってほしいなあ。