こんなテーマで本を書き始めました。問題意識を知ってもらうため、「はじめに」だけアップしておきます。

 

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 日韓関係はこのままずるずると悪化を続けるのか。それともいつの日か、日本と韓国が和解し合える時は来るのか。

 

 その答えは人によって異なると思われる。しかしいずれにせよ、お互い引っ越しのできない隣国で、これだけ緊密な関係にある両国が、現在のように関係がどんどん悪化する現状を放置しておいていいはずがないことは、大方の人が同意できるのではないだろうか。本書は、両国が和解するために何か必要なのか、どんな接近方法が求められるのかを、筆者なりに探ったものである。多くの人に目を通してほしいと思う。

 

 ただし、本書を買おうかどうか迷っている方に対し、礼儀として最初にお伝えしておく。本書は二種類の考え方を持つ人には不向きであり、買っていただく必要はない。おカネを払って気分を害するだけになるからだ。

 

 二種類のうちの一つは、日韓関係がこじれている原因はすべて日本のかつての植民地支配と、それを反省しない現在の日本政府にあり、日本は韓国の主張に全面的に従うべきだというものである。もう一つの考え方とは、逆に、日本の植民地支配も戦後の責任の取り方も非の打ち所のないものであって、韓国の主張はすべて間違っており、日韓関係の断絶も辞さないというものである。

 

 日韓関係は戦後最悪の局面を迎えていると言われる。確かに、徴用工問題、慰安婦問題、レーダー照射問題をめぐる日韓の政府、国民世論の対立は激しく、深い。和解の本を書こうとしている私とて、ときに、「いい加減にしてくれよ」と言いたくなることもある。

 

 これだけの対立が生まれるのは、それぞれの国民の多数が、自国の主張を正しいと考え、相手国の主張を間違いだと捉えているからだ。目の前にある問題は同じなのに、なぜそんなことになるのか。政府による世論誘導などがあって、国民多数が間違った主張を信じ切ってしまう場合はある。戦争のような局面ではよくあることだ。しかし、戦争が起きているわけでもないのに、北朝鮮とは異なって言論の自由が存在する日韓両国で、ほとんどの国民が間違った考えで一色に染め上げられるなどあり得ないことだ。

 

 それならば、相手国の国民が自国政府の主張を支持するのには、それなりの根拠があると考えるべきではないのか。これは日本の読者に対してだけ、韓国の主張にも根拠があると考えてみようと述べているわけではない。韓国の人々に対しても、日本の国民多数が韓国の主張に憤慨し、自国政府の主張を支持しているのには、ちゃんとした根拠があると考えなさいとも諭しているのである。お互いに、たとえ愉快に受け止められないにしても、その現実に目を向けるべきだと述べているのである。

 

 お互いの主張に根拠があるということは、全面的か部分的かは別にして、どちらの主張にも正しさがあることになる。正しい主張同士が対立しているということだ。ということは、同じ問題をめぐって二つの回答が存在することになり、真理は一つしかないという「科学」の観点からは矛盾していると言う人が出てくるかもしれない。

 

 けれども、これから論じていくように、国際法の世界において植民地支配がかつては合法だったが現在は違法だとされていること一つとってみても、この問題をめぐる正しさを固定的、絶対的なものと考えると間違うことになる。両国国民の認識の断絶には必然的なものがあるのだ。

 

 しかも、相手の主張にも根拠があるかもしれないという謙虚さを持たないと、この激しい対立を冷静に乗り越えることもできないだろう。本書の論述は、矛盾する真理の間を行き来するため、心地よく響いている言葉が突然反転し、不快感を与える言葉になるようなことを繰り返すかもしれない。しかし、そういうことになるのは、問題の複雑な性格から来るものであることを理解し、最後まで付き合っていただけると幸いである。