一昨日、昨日と、この本を書かれた立岩さんと、ジュンク堂書店の三宮駅前店、難波店で対談してきました。発売日直前ですが、アマゾンで予約できますし、明後日27日の発売日までに受け取ることも可能なそうです。以下、今月の弊社のメルマガへの寄稿です。

 

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 著者はNHK国際報道局デスクも経験した調査報道のベテラン。関西在住の方にとっては、毎日放送「ちちんぷいぷい」のレギュラーコメンテーターとしておなじみかもしれません。

 

 近著『ファクトチェックとは何か』(共著、岩波ブックレット)は、昨年末、尾崎行雄記念財団の「ブックオブザイヤー」に選ばれました。この両著のタイトルでも分かるように、著者の問題意識は、近年大きな問題になっているフェイクニュースをどうあばき、事実(ファクト)にもとづく報道をどう追求するかにあります。

 

 本書は、そういう著者の問題意識を、トランプ大統領をめぐる報道を材料にして深め、具体化したものと言えます。フェイクニュースやファクトチェックは、言葉としては最近知られることになりましたが、この問題を論じた著書は多くはありません。トランプ大統領のもとでのアメリカの行方に関心のある方にとっても、報道のありようそのものに関心のある方にとっても、待ちわびた1冊ということになるのではないでしょうか。

 

 著者によると、アメリカの場合、トランプ大統領が演説している間にも、ファクトチェックが始まるということです。事実かどうか、単に誤解しているだけなのか、それとも意図的にゆがめるフェイクとまで言えるか等々が、演説の進行につれて明らかにされるのです。積み重ねられてきた報道の歴史的な重みを感じさせてくれます。

 

 さらに、著者が紹介するアメリカのジャーナリストの姿は、ジャーナリズムはどうあるべきかを教えてくれます。ホワイトハウスの記者会見でトランプ大統領が特定の記者をつるし上げた際、他のメディアも含めて抗していく姿、いわゆる娯楽番組といえども大統領と闘う気概をもって企画をつくっている姿は、日本の報道しかしらない私たちにとって驚きです。

 

 翻って、著者が問題にするのは、その日本の報道のありようです。日米首脳会談の結果報道でも、アメリカ政府のホームページではトランプ大統領が強調しているのは「安倍首相が武器を購入すると約束した」ということなのに、日本政府は「日米の結束を確認した」とコメントし、それが日本のメディアにはあふれかえってしまいます。アメリカ政府のホームページを見るだけで分かることなのに、そういうことがされていません。

 

 なぜそうなるのか。例えば、「日米関係筋」からの情報として引用されることが、実は「米」と言いながらアメリカからの情報ではなく、日本政府高官から出ていることが多いそうです。悪名高い「記者クラブ」制度ですが、外務省記者クラブの出先機関がワシントンの日本大使館の中にもあり、そこからの情報が外務省からの情報と一致すると、どちらも外務省からの情報に過ぎないのに、日本とアメリカの両方が一致していることになってしまうのです。その結果、日本政府だけが「期待」していることが、アメリカも同じ認識をもっているように描かれ、日本国民は間違った報道を信じさせられることになるのです。

 

 日本の報道がゆがむ理由とその構造が、本書を見るとよく理解できます。同時に、私たちがどうやればフェイクニュースを見破り、ファクトにもとづいて判断できるようになるのかも、本書を通じてつかむことができます。