毎月のことだが、会社の企画会議には、いろいろと考えている企画案を提出する。それが現実味を帯びてくると、詳細をまとめて正式な企画書として提案することになる。

 

 もう10年ほど前からずっと企画案として提示してはいるが、いまだ企画書にならない企画があった。それが『鉄腕アトムはつくれるか』だ。

 

 いわばロボットが心を持つ段階にまで至れるかというテーマの本である。これまで、この問題に関心のある哲学者、脳科学者などに話を聞いて、打診もしてきたが、現実味を帯びたものにはなっていない。

 

 そこを突破できるのではないかと思える段階になってきた。きっかけは、先日書いたけれど、アンドロイド観音の仕事に関わっているからだ。

 

 これって、あの300字足らずの経文を、ロボットが読み上げるというものではない。法話を説くわけである。それをリアリティをもったものにするために、あの夏目漱石のアンドロイドでも有名な大阪大学の石黒研究室の協力を得ている。それでこの問題を研究している方にいろいろな話を伺う機会があったのだ。

 

 例えば、人間の女性が鉄腕アトムに対して、「愛してる」と言い寄ってきたとして、アトムはどう反応するだろうか。現在のAIの議論からすると、「愛してる」と言われた場合の何億もの反応を覚えさせ、その女性とのそれまでの関係や「愛してる」という言葉の響から感じ取る女性の真意とか、そういうものを判断してアトムが対応するようになるのだろうか。

 

 しかし、そうやって何億もの人間のパターンを学習し、普通の人間よりもより豊かな対応できるようになったとして、アトムが「愛」を理解したことになるのか。心を持ったことになるのか。

 

 AIの広がりによって、ロボット研究者が、科学的な知見も深めているし、哲学的な洞察も深めるようになっている。だから、『鉄腕アトムはつくれるか』という本のテーマが、ようやく現実味を帯びてきたと感じられるのである。