(一昨日紹介した毎日新聞兵庫県版19日付より)

 

 元自衛官として集団的自衛権の行使などに反対し、2017 年5 月に63歳で亡くなった姫路市出身の異色の社会活動家、泥憲和さんの全集が昨年11月、かもがわ出版から発刊された。泥さんが約10年間で300 万字も残したインターネットの文章から「憲法と安全保障」「戦争と歴史認識」「差別とレイシズム」「貧困と労働問題」など12のテーマ別に精選した。市井の元自衛官が残した文章を全集に編さんしたのはなぜか。出版を決めた同社編集主幹で、安全保問障に詳しいジャーナリストの松竹伸幸さん(64)に聞いた。

 

──1000頁超の全集を出版した理由は。

 泥さんの考え方や行動、主張は安全保障、貧困、原発、反ヘイトなどの分野で、多くの人を変える力があります。その神髄を伝えるには中途半端な内容では駄目だという結論になりました。

 

──編集作業や費用も大変です。 

 泥さんが亡くなった後、呼びかけに応じた10人程度の人がネットに残った原稿の複製に協力してくれました。また、原稿のテーマ別の分類と選沢は、生前に泥さんと縁のあった現役編集者が担当。校正は翻訳家の池田香代子さんが協力してくれました。

 

──泥さんと知り合ったきっかけは 

 2009年に北朝鮮拉致被害者の兄、蓮池透さんの本を出版しました。それまでは蓮池さんに「強硬派」のイメージがあり、左派の反応は冷たかった。しかし、泥さんが評価してくれて、姫路市で蓮池さんの講演会が実現しました。

 

──市井の元自衛官の言論が安全保障のプロに高く評価されました。

 安全保障の知識は専門家にかなわない。しかし、元自衛官として安全保障を理念、理想とリアルな現実の両方から語り、右派とも対話が成立しました。また、政治的な立場を超えて、人の気持ちが分かる人でした。集団的自衛権に反対する泥さんの演説がフェイスブックで2万2000人もの人にシェアされたのは、立場を超えて心に響いたからだと思います。

 

──中学卒業で自衛隊に入り、文章の訓練はしていません。

 最初の本「安倍首相から『日本』を取り戻せ」も編集者として「何もしていない」ほど、そのままの文章です。文章力はさまざまな職業を経験した泥さんが現実の世界で人を助けるため、具体的な成果を得ようとすることで身についたのでは。

 

──ちまたに広がるヘイトスピーチに路上で一人で立ち向かった。

 普通はできないことなので共感を呼んだと思います。泥さんの反ヘイト活動はすがすがしい。体を張るけれど言論で立ち向かい、集団でヘイトスピーチする側の醜さを浮き彫りにしました。

 

──泥さんの議論は実証的でした。

 インターネットでの議論でも必ず1次資料に当たり、文献を参照していました。ちょっと間違えると炎上して生命力が削られるような激しい世界で水準の高い文章を書き続け、ネット言論の地位を高めました。今でも歴史問題などの議論では泥さんの文章が参照されています。

 

 「泥憲和全集 『行動する思想』の記録」は5000 円(税抜き) 問い合わせは、かもがわ出版(075・432 ・2868) 。