韓国側がこの問題でのみずからの主張を日本に認めさせようとすると、日本政府が植民地支配は違法だったと認めないといけない。そのためには、日本の世論の多数がそう思わないといけない。

 

 ところが、日本の世論はそうなっていない。慰安婦問題の時よりも、ずっと韓国側の主張に納得していない。

 

 それには理由があって、慰安婦問題は、日韓請求権協定の時には両国の交渉の議題になっていなかったので、協定で補償された問題に含まれないという主張があり、それなりに納得できるものがあったからだ。ところが、徴用工問題は請求権協定の議論の際に明確に含まれていて、両国とも解決を確認し合ったわけなので、日本の世論が(日本政府の対応も)慰安婦の時よりも強硬になるのは理解できる。

 

 韓国はそれをどうやって日本側に納得させようとしているのか。私には、そこを韓国側が真剣に考えているようには思えない。植民地支配は違法だった、だから賠償せよということだけである。

 

 それで通じるなら、欧米の旧宗主国は、すでに植民地支配を謝罪して賠償しているだろう。韓国側の主張は、欧米に通じていないように、日本の政府にも国民世論にも通じていないのだ。

 

 そこを韓国側が乗り越えるには、罪刑法定主義という、近代法の大原則を覆すことで世界の合意を得ることがである。ある時代に違法とされていなかったものを、のちの時代に違法と認定し、罰則を加えてはならないというのが罪刑法定主義であるが、それを覆すとなると、世界中が大騒ぎになる。韓国はどういう論理でそれを納得させるのか、明確にしなければならない。

 

 そうではなく、欧米の植民地支配は違法ではなく、日本の韓国支配だけが違法だったという主張なのだろうか。それならば、罪刑法定主義の原則はそのままで、日本は例外ということになり、欧米の反発は弱まるかもしれないけれど(日本を皮切りにいずれ自分にも向かってくると思えば賛成しないだろうが)、アジア・アフリカの国々は自国が植民地支配されたことは合法だったという論理につながるので、世界の多くの開発途上国は強く反発する可能性がある。

 

 要するに、韓国にとっては自明の問題だから証明不要だと考えているかもしれないが、世界に通用する論理を考えないとダメだということだ。そうでないと、韓国の世論は日本の企業の財産を差し押さえて万歳ということになるのだろうが、日本の世論との亀裂はどんどん深まることになっていくということだ。それを考える責任は、それを求めている韓国側にある。(続)