そういう論評が多い。私もそう感じるけれど、その根拠としてあげたいのは、次回の外相交渉が2月、ミュンヘン安全保障会議の場でとなったことだ。ロシアは、この会議そのものを、領土交渉をロシア優位で決着させる材料にするつもりではないか。

 

 まず、会議の場所がミュンヘンとなったことだ。ドイツが戦後、領土問題でどういう態度をとったかを、ロシアは強烈にアピールしてくるだろう。

 

 第二次大戦後、領土問題が焦点となったのは、日本とドイツである。日本は、ソ連による北方領土の取得に対し、国際法に違反するものだと位置づけ、領土返還を求め続けてきた。第二次大戦において連合国が「領土不拡大」を掲げたことをもって、ソ連が領土を奪ったことは許されないのだとの主張もある。

 

 そういう議論をしてきた日本国民からするとあまり関心を持たれないのだが、同じ敗戦国であるドイツは、まったく異なるアプローチをした。領土を奪われたことを容認したのである。

 

 ドイツが失った領土は、大戦前と比べると、25%にも当たるという。ドイツの東部(オーデル・ナイセ線より東)はポーランド領になったのだ。当初、西ドイツ政府は領土の回復を掲げていたが、いわゆるブラント外交により、ソ連やポーランドと国交を回復し、容認するようになった。

 

 プーチンは、第二次大戦の結果を受け入れるべきだとくり返し述べている。おそらくプーチンは、2月の会議に向けて、このドイツの態度を前例にして世論向けのキャンペーンを展開し、日本側に受け入れを迫ってくるのであろう。

 

 だらに会議がミュンヘン安全保障会議であることも象徴的だ。これって、1972年に発足した「欧州安全保障協力機構、OSCE」の源流になった民間の会議だ。そして、そのOSCEこそは、東西に分かれていたヨーロッパ諸国が、一致して国境の不可侵、領土保全の原則を打ち立てることに貢献した。

 

 プーチンは、第二次大戦の結果(領土の変更を含む)をヨーロッパ諸国がすべて受け入れたから、欧州の安全が確保されたと、これも強くアピールしてくるのだろう。もっともロシアはウクライナ問題に見られるように、この原則を平気で踏みにじっているのだけれどもね。

 

 それにしても、こんな場を日ロの領土交渉の開催場所として持ってくるなんて、安部さんは分かってやっているのかなあ。押し切られることを望んでいるとしか思えないのだけれど。

 

 いや、こういうやり方をして、日本の世論を説得しようとしているのかもしれない。ドイツとヨーロッパの経験に学ぼう、北方領土を失ってもコワくないのだと。深読みかなあ。