韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題。いろんな議論が飛び交っているが、どういう立場をとるにせよ、6.12米朝首脳会談から始まった北東アジアの激変を象徴する問題ではある。

 

 9.11の時にアメリカで問題になったことだが、領空侵犯機を撃墜する命令は大統領にしか出せないことになっていた。その決断が戦争を招くかもしれないのだから、当然のことである。戦時においては別で、現場の司令官に委ねられるのだが、平時ではそうことはあり得ない。

 

 ところが北東アジアでは異なる。87年12月、日本の領空を侵犯したソ連軍機に対して航空自衛隊がスクランブルするだけでなく、20ミリ機関銃に混在している曳光弾を発射し(信号射撃と呼ばれる)、領空からの退去を求めた。これも、今回の韓国海軍の行為と同じく、相手が誤解すればただちに反撃に遭い、戦争に突入する可能性があったのだが、その命令を出したのは総理大臣ではなく、南西航空混成団の司令であった。

 

 もともと航空自衛隊が発足した時、空の管制はすべて米空軍が担っており、米軍は領空侵犯対処というより、戦時を想定して「敵性国」への先制攻撃なども含む対処要領を持っていたとされる。それは、朝鮮戦争が休戦したとはいえ、法的には戦争状態が続いているという特殊な状況が生み出したものだった。59年に締結された「松前・バーンズ協定」にもとづいて日本に領空侵犯対処の権限が移管されたあとも、信号射撃の権限が現場の司令官に付与されつづけたのも、そういう凖戦時状況の反映だと思われる。現在のそのままである。

 

 今回の事件は、韓国の軍隊においても、一歩間違うと戦争になりかねない権限が、日本と同様、最高司令官である大統領ではなく現場の司令官に委ねられていることを示している。北東アジアでは戦時が続いていることを実感させるものではあった。

 

 常識的に考えて、韓国軍によるレーダー照射は許されるものではない。銃口を向けるような行為だから、ともに北朝鮮に対峙している「準」同盟国の部隊に対して、こんなことをやってはいけない。

 

 しかし、そういうことが平気でできるのは、すでに北東アジアの状況が根本的に変わったことの反映でもある。この問題を見る上では、そういう視点が必要なのではないか。(続)