年明けに、2019年の政治的焦点となるテーマで、2冊の本が出ます。元幹部自衛官と元高級官僚という、弊社としては珍しい人が著者の本です。

 

 一つは、『自衛官の使命と苦悩──「加憲」論議の当事者として』。著者は渡邊隆(元陸将)、山本洋(元陸将)、林吉永(元空将補)の各氏。柳澤協二氏(元内閣官房副長官補)が解説を書いています。自衛隊の最高位は幕僚長で、陸将や空将はその一つ前、少補はさらにその一つ前の地位ですから、本当に最高幹部だった方々です。ちなみに、官房副長官補というのも、官僚としては事務次官と同じレベルの最高位です。

 

 

 テーマはいうまでもなく、安倍首相が執念を燃やす改憲問題。自衛隊を明記するという「加憲」案に対して、当事者である自衛官、とりわけ自衛隊を代表するような幹部自衛官は何を思い、何を感じているのかです。当事者の気持ちを知らないまま議論が進むのはおかしいと思いませんかと問いかけたところ、二つ返事で引きうけてくださいました。

 

 どの方にも、まず、自衛官を志した動機や、自衛官としての人生を語っていただいています。「加憲」問題に関する気持ちも、それぞれの人生体験とは無縁ではないからです。例えば、ある方は、防衛大学校に入った年(1973年)に、自衛隊を違憲とする地方裁判所の判決があり、親友が大学を去る体験を抱えながら、その後も自衛官として勤め上げてきました。日米合同演習などでは、自衛隊と米軍の関係をどう構築するかという、一般には想像できない体験を積んできておられます。基地反対運動の側の話はいろいろな本にもなっていますが、それに対応した自衛隊の側の人が、それら運動団体をどう捉え、どうアプローチしてきたかというのも、おそらくこの本が最初に明らかにすることです。

 

 そういう体験の上に、「加憲」への思いが語られます。ずっと違憲論に囲まれてきた著者にとって、違憲だと言われる余地がなくなるわけですから、心が動かされないはずがありません。その切々とした心情が伝わってきます。しかし、では心が晴れ晴れとしているかというと、そうではないのです。せっかく国民の多くが自衛隊をリスペクトしている現状があるのに、「加憲」論議が自衛隊をめぐる対立と分断を生みだすのではないか。そんな不安もあって、それなら現状のままがいいと思う自分もいるのです。

 

 護憲派が「加憲」問題を語るとき、そういう自衛官の使命と苦悩を理解していれば、訴えにも深みが出て来ると思います。説得力が増してくると思います。是非、2019年に読んでほしい本です。

 

 もう一つは、『激変の北東アジア 日本の新国家戦略』。外務官僚としては河東哲夫氏(元ウズベキスタン大使・ロシア公使)、美根慶樹氏(元日朝国交正常化交渉日本政府代表)、経済官僚としては塩谷隆英氏(経済企画庁事務次官)、津上俊哉氏(経済産業省北東アジア課長)、防衛官僚としては前出の柳澤協二氏(内閣官房副長官補・防衛庁運用局長)という豪華な顔ぶれです。

 

 

 テーマは、ずばり北朝鮮の非核化。6月12日に史上初の米朝首脳会談が開かれ、期待が高まりましたが、その後は膠着状態が続いています。この状態をどう捉え、どう打開するのか、日本の戦略が問われていると思います。拉致被害者の家族会なども、拉致問題を解決する最後の機会と考え、声をあげているようです。

 

 ところが、日本政府からは、あまり主体的に動こうという意欲が伝わってきていません。よく言ってアメリカと北朝鮮の動きをそばで眺める「待ち」の姿勢であり、実際は現状が続くことを望んでいるようです。北朝鮮が核兵器を保有しているほうが安倍政権が頼りになると思われるから現状がいいとでも考えているとしたら、とんでもないことです。

 

 そこで、これまで日本の国家戦略を担ってきた高級官僚の方々に登場願い、どんな新戦略が描けるかを提示していただいたのが、今回の本なのです。今年は官僚の「忖度」という言葉が流行語になりましたが、忖度しない官僚はこんなに大胆で柔軟な提言ができるというのが、この本を通じて分かります。

 

 ある著者は、ただ非核化を目標にするだけではなく、朝鮮半島全体を中立化することをめざさないと、非核化も達成できないとします。また、グローバルな国家、世界大乱、中華秩序などいろいろ考えられるシナリオのなかから、日本がどの道を選択するのかを考える好機だと捉える著者もいます。

 

 あるいは、日朝国交正常化による日本の北朝鮮に対する経済協力などを通じ、北東アジアからシベリア極東部にいたる経済圏を構想する著者もいます。実際にこれまで、政府系の総合研究開発機構(NIRA)で検討され、発表された構想が下敷きになっているので、現実味があります。

 

 防衛問題をめぐっても、ずっと日本の安全保障戦略として自明のものと思われてきた抑止力について、抜本的に考え直すべきだと主張する方もおられます。では、それに替わってどういう戦略を提示するのかが語られます。

 

 この2冊を読めば、2019年に日本を少しでもよくするため、何を考え、何をすべきか、そのヒントがつかめるのではないでしょうか。書店では1月上旬発売ですが、弊社のサイトからはすでに注文ができるようになっています。

 

 なお、私は長らく編集長としてお世話になってきましたが、先月末を以て退任し、今月より編集主幹という肩書で仕事をすることになりました。メルマガ読者の方々には、今後ともかもがわ出版をよろしくお願いします。