作品の原作者ビートたけしさんは好んでヤクザ映画をつくるが、その発言と行動に、子供のような純な心が見える

 

ビートたけしさんが初めて書きあげた恋愛小説(2017)。未読です。

いかなる恋物語やと期待し、観て「これぞビートたけし」作品だと思った。(笑)なかでも高次脳機能障害の彼女を数年単位で愛していくくだりに、これこそ“アナグロ愛”だと思った。ビートたけしさんが何故自分で映画化しなかったか、これが謎です。(笑)

 

監督:「元テラ」のディレクタ-タカハタ秀太原作:ビートたけし、脚本:港岳彦、撮影:板倉陽子、編集:タカハタ秀太、音楽:内澤崇仁。

 

出演者二宮和也、波瑠、桐谷健太、浜野謙太、板谷由夏、高橋惠子、リリー・フランキー、他。

 

物語は、

手作りや手書きにこだわるデザイナーの水島悟(二宮和也)は、自身が内装を手がけた喫茶店「ピアノ」で、小さな商社に勤める謎めいた女性・美春みゆき(波瑠)と出会う。自分と似た価値観のみゆきにひかれた悟は意を決して連絡先を聞くが、彼女は携帯電話を持っていないという。そこで2人は連絡先を交換する代わりに、毎週木曜日に「ピアノ」で会う約束を交わす。会える時間を大切にして丁寧に関係を紡いでいく悟とみゆき。しかし悟がプロポーズを決意した矢先、みゆきは突然姿を消してしまう。さて、みゆきは何故消えたのか?悟はみゆきに合えたのでしょうか。(映画COMより)

 

 

あらすじ&感想

悟はミーティング中に悪ガキの高木(桐谷健太)から呼び出され、喫茶「ピアノ」で、偶然、みゆきに出会った。この店のデザインは悟が行ったもの、それを褒めたみゆきが気に入った。また会いたいと思った。

 

次に会ったときに名前と職業を聞き、同じものを「美味しい」と食べた。悟が「また会いたい」と言うと「携帯は持ってない。木曜日に会いましょう。お互いが会う気持つがあれば会えます」といった。

 

悟のデザインは高く評価され仕事がくる。が、必ず模型を作って納得してもらうというアナログ的な仕事っぷりで、徹夜で仕事をやる。これでみゆきとの約束をスッポかしたが、次にピアノに出向くと彼女が待っていた。

 

悟はみゆきを焼鳥屋に誘い、高木と山下に合わせ、ふたりだけのときとは違って、みゆきがお酒を飲み落語をやってみせる。帰りにみゆきから音楽会に誘われた。こうして会う毎に新しいものを発見していく

 

音楽会では途中でみゆきが突然「すいません」と席を外し帰っていった。描かれないが、悟は大きな衝撃を受け悩んだと思う。(みゆきは亡くなったピアニストの元夫を思い出し、まだ夫への想いがあると席を外したものだった)。

 

悟は癌で闘病中の母親(高橋惠子)を失い悲しみの中にあった

 

悟が喫茶ピアノで休んでいると、そこにみゆきが現れた。みゆきから会えなかったことを侘びてきた(みゆきは元夫との関係が整理できていた)。そして「海に行きませんか」と悟を誘った。ふたりは海に出掛け、みゆきが悟を抱き締めた。

 

それからは毎週会い、デートを楽しんだ

 

海辺で糸電話を楽しんだ。悟は「みゆきさんと一緒に歩きたい」と伝えたが、みゆきの返事はよく聞こえなかった。糸電話か、確かにアナログだ。(笑)何かの作品で観たなとしたべたら「宇宙でいちばんあかるい屋根」(2020)で使っていた。(笑)

 

次に会ったとき、「父が倒れ、なにも出来ない」とすぐに帰っていった。悟は「話がある」と約束して別れた。悟は婚約指輪を準備して会う日を楽しみにしていた。

 

しかし、次の週、さらに次の週もやってこなかった。4か月経っても現れなかった。会えなければ会えない程に悟の会いたい思いが募る。そして1年後、大坂に転勤を命じられた。

 

山下がレコード会社に勤める妻が持ち帰ったDVDの中にみゆきのバイオリン演奏曲を見つけた。山下は悟に電話した。

 

「みゆきは国際コンクールなど数々のコンクールで入賞、国外で人気のヴァイオリニスト。20歳で結婚、ヨーロッパで活躍。夫の死を契機に引退」というものだった。

 

山下はわざわざ大は阪まで出向いて「みゆきは偽名で日本に戻り知り合いの小さな商社で働いていた」「あの日は彼女お前に会うためにタクシーに乗り事故に遭った」と新聞記事を示して伝えた。悟は信じられなかった。

 

悟はみゆきの姉・香津美(板谷由夏)に会った

香津美から「みゆきは脳障害で下半身麻痺、意識はあるが植物状態。水嶌さんが覚えている子ではない」と知らされた。悟は車椅子のみゆきに会って、泣いた。

 

悟が久しぶりに喫茶ピアノを訪ねたところ、ここで香津美に出会った。

香津美はみゆきに日記が見つかり、「読んだら忘れる!」を条件に読むかと聞く。

悟は「守る」と約束した。そこには出会ったときからのことが書いてあった。

 

「音楽会では夫が思ったより重く心に残っていたので席を外した。糸電話では好きだと伝えた。何時かバイオリンを聞かせたと思っている」とあった。

 

香津美が「みゆきはやっと時間が動き出したと、事故前に携帯を買った」と伝えた。悟は泣いた。

 

悟はみゆきの療養施設を尋ね香津美に「手助けしたい」と申し出た

香津美は「うれしいが、これは長く続く。あなたの人生に重荷になる」と断った。悟は「家族になると思った人だから、毎日すこしでいいんです」と話すと、みゆきの顔が動いたように見えた。悟は香津美に海の見えるところで療養するよう説得した

 

悟は海岸近くに自らの事務所を構え、みゆきを迎えた。

みゆきを車椅子に乗せ、話を聞かせながら海辺を散歩する毎日が始まった。

 

1年後の冬、海岸を散歩していると、みゆきが悟の手に触れかすかな声で「きょうはもくようび」と言う。悟が「今日から毎日木曜日」と返し、泣き、みゆきの涙を拭いた。

 

まとめ

携帯を使わない交際。焼き鳥に音楽会、そして海辺にと逢瀬を楽しむ。逢う毎に、次は何をしようと考え、こうしてお互いが少しづつ知っていくという手造りの愛の育て方。やがてたまらなく会いたくなり、結婚を申し込む。こんなまどろっこしいアナグロ的な逢瀬だった。が、フェイス トウ フェイスの本当の付き合いかもしれない!

 

一度は失われた逢瀬が、彼女が交通事故で失われた事実だと知った時、アナログ的な逢瀬で生まれた“アナログ愛”は、これだけでは終わらなかった

 

みゆきは交通事故で高次脳機能障害、植物状態で下半身不随だった

悟はこの症状のみゆきを引き取り、毎日、みゆきが好きだった海を見せ、記憶を辿る会話でみゆきの記憶を蘇らせる。これはお涙頂戴ではなく、悟にしかできないみゆきに必要な愛し方だった。

 

こんな古風で根気のいる愛を描いた“アナグロ愛“、ビートたけしさんらしいと思った

 

清潔感がある二宮和也さんと波瑠さんというキャスチングは物語によくあっていた。さらに、映像がしっかりしていて美しい。すこしブルーがかかっていたら北野作品だと思った。

 

みゆきはビートたけしさんの再婚相手の方がモデルだという。だから、映画化を昵懇のタカハタ秀太さんに任せたと思った。このこともはにかみ屋のたけしさんに合っている。少しこっぱずかしいところがある、ビートたけし感一杯の作品だった。

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