ケイト・ブランシェット自らが出演を希望した作品とか。これは観ないわけにはいかない!ということでWOWOWでの鑑賞。

 

タイトルの“行方不明“からミステリードラマかと思ったら、人生から見放された母親の生き様が描かれ、深い人生の生き方を味わう物語だった

 

「夫婦が生涯添い遂げるのはそれを選択したからだ!」という結末に唸った。

あるトラウマで狂った天才建築家を演じるケイト・ブランシェットが生気を取り戻してくる演技は映画「TAR ター」(2022)にも劣らぬ好演だった。さらに彼女が設計した建築作品がすばらしい!建築家になりたかったと思わせてくれる。

 

原作:マリア・センプルのベストセラー小説「バーナデットをさがせ!」、未読。監督:「6才のボクが、大人になるまで。」のリチャード・リンクレイター、脚本:リチャード・リンクレイター ホリー・ジェント ビンス・パルモ、撮影:シェーン・ケリー、美術:ブルース・カーティス、衣装:カリ・パーキンス、編集:サンドラ・エイデアー、音楽:グレアム・レイノルズ。

 

出演者:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、エマ・ネルソン、クリステン・ウィグ、ゾーイ・チャオ、ジュディ・グリア、クローレンス・フィッシュバーン、ジェームズ・アーバニアク、他。

 

物語は、

シアトルに暮らす専業主婦のバーナデット(ケイト・ブランシェット)は、一流企業に勤める夫や親友のような関係の愛娘に囲まれ、幸せな毎日を送っているかにみえた。しかし彼女は極度の人間嫌いで、隣人やママ友たちと上手くつきあうことができない。かつて天才建築家として活躍しながらも夢を諦めた過去を持つ彼女は、現在の退屈な日々に次第に息苦しさを募らせていく。

 

やがてある事件をきっかけについに限界を感じたバーナデットは、家族の前からこつ然と姿を消し、南極へと向かう。(映画COMより)

 

 

あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

バーナネットの娘ビー(エマ・ネルソン:15歳)のナレーションで始まり、終わる物語。

 

冒頭、行方不明の母バーナネットが南極の海でカヤックを漕いでいる映像をバックに、なぜこうなったかというビーの所見から始まる。

 

「脳の割引機能」を知っている?

例えばダイヤのネックレスをプレゼントされて大喜びでも時間の経過とともに忘れる。この機能は人間の生存戦略で新しい体験に備えての危険信号になる。しかし、猛獣に襲われるでもなくリセットすればいいはずなのに。喜びでなく危険を知らせる初期設定になり、設計上のミスに思える。私のママも同じだ。危険信号に集中するあまり、人生の喜びを見失った。パパもママもダイヤの輝きを見なくなってしまった。耳に痛い言葉だ!

 

バーナネット行方不明の5週間前から始まる。

 

ビーが南極家族旅行を両親に求め、決まった

ビーは両親の希望に叶うようしっかり勉強したので約束のプレゼントとして南極家族旅行を求めた。父親のエルジー(ビリー・クラダップ)は同意したが、バーナネットは人間嫌いで団体旅行に不安があったが、愛する娘のためだと同意した。

 

隣家のオードリーが庭のブラックベリーの始末を求めてきた

隣家のオードリー(クリステン・ウィグ)はビーが通う中学校で数々の部会を立ち上げた活動家。一方、バーナネットは保護者代表に立候補したがオードリーの仲間にボコボコに叩かれたという。因縁のオードリーの要求だった。自宅で父兄の昼食会を開くために花を植えたいがブラックベリーの根が邪魔になるというもの。バーナネットはオードリーが紹介する庭師に全部刈り取るよう指示し、派手な「立入禁止」の看板を立てた。

 

バーナネットは南極家族旅行の準備を仮想秘書のマンジュラに命じた

ビザの手続き、航空機の予約、お勧めの持物特に釣り用ベスト、不安安定剤などの準備を指示した。仮想秘書はネットで見つけたらしい。今はインドにいる。

 

バーナネットがビーを迎えに学校に出向く、その際車でオードリーを傷つけた

オードリーは昼食会のことで学校に来ていたらしい。バーナネットは校門でビーを拾い、発進しようとしたところにオードリーが近付いてきたが、これを無視して発進した。負傷させるなんて考えもしなかった。

 

帰宅するとビーの東部の寄宿舎校の合格通知が届いていた。ふたりは喜んだが、バーナネットは複雑な心境だった。

                                     

ビーの合格祝いのディナー

エルジーはマイクロソフトのエンジニア。“サマンサ2”プロゼクトのリーダー。ワーカーホリックで帰宅が遅い。このディナーも「台北とのビデオ会議だ」と途中で切り上げた。

夜、バーナネットは南極旅行時の船酔いが気になり出す。マンジュラに船酔いの薬を依頼した。これが大問題になるとは思わなかった。

 

バーナネットは図書館が好きでよく出かける

そこで出会った女性に「“20マイルの家”20周年記念動画であなたのことを知り、お会いできてよかった」と挨拶された。

 

夜、この動画を見直してみた。建築系院生300人のアンケートで、尊敬する建築家のトップであったこと。そして天才賞を受賞したこと。このあとスパッと建築界を引いたこと。“20マイルの家”の隣に土地を購入した大物によりこの建物が取り壊されたことを思い出し、動画を見るのを止めた。建築家バーナネットにとってのトラウマだった。

 

バーナネットの設計建設物“2焦点メガネ”“20マイルの家”について建設家や不動産屋、学者など建築界からの評価を動画で見せてくれる。これが楽しい


マンジュラに依頼したものが届いたが、「薬品は本人が出向いて引き取って欲しい」と伝えてきた。

 

バーナネットが薬局に出掛け薬を受け取ろうとすると断られた

店主から「精神安定剤(ハルドール)でソ連の刑務所で悪用されたものだ」と断れた。バーナネットはとりあえず抗不安剤と貼り薬を買った。

 

後ほど分るがここは大きなトラップだ。ミステリアスな展開にして観るものを楽しませるために仕組んだプロットだが、ストーリーが複雑になりいい案だとは思えない

 

バーナネットは抗不安剤を飲み眠くなって、薬局のベンチで寝ているところに

エルジーが新しく雇った秘書スーリン(ゾーイ・チャオ)と通り掛かる。エルジートはバーナネットを起こしディナーを約束して別れた。

 

バーナネットはビーを迎えに学校に駆けつけた。ビーからオードリーが負傷して救急の請求書を渡されたと聞く。バーナネットは「嘘だ!」と認めなかった。ビーは親友のケネディのところで遊ぶ約束があるというので送った。その後、レストランでエルジーと食事だった。

 

バーナネットとエルジー、ふたりだけのレストランでの食事

エルジーが薬局で処方されなかった薬のことを聞いてきた。バーナネット「ある医者から紹介されたものでおどろいた。南極旅行の船酔いが心配で頼んだものだ」と答えた。そして「秘書のスーリンはオードリーの友人のひとり、私たちの関係を壊しにくる」と注意した。

 

バーナネットは食事の後、ビーを迎えにケネディの宅に急いだ。車が走れないほどの豪雨だった。ふたりは車の中で歌を唄って過ごした。一方、エルジーは家に戻り、バーナネットの話が本当かどうか、化粧室の薬を調べた。

 

この頃、隣家のオードリー邸では父兄会のパーティーが始まっていた。外は豪雨だった。子供たちの合唱が始まったところに、バーナネットの庭から大量の土砂が流入してきてパーティーは大混乱。

 

帰宅したバーナネットにオードリーが「あなたの裏庭の崖の土砂が流入してきた」と抗議にやってきた

バーナネットとオードリーの激しい口撃が続く。(笑)バーナネットが「弁償する」と謝ると「ヘイトに満ちた立て看板が気にくわない」と言い、「たまには外に出て社会に触れたら!」とバーナネットをバカにした。ビーがたまりかね「ママを分かっていない。あなたの息子のことも分かっていない。学校では笑い者になっている。薬もやっている。糞女!」と言い返した。(笑)

 

バーナネットとビーは高層レストランでケネディの誕生祝いをしていた

そこに出張のはずのえるエルジーが現れた。話はオードリーとの諍いのことだった。エルジーは「ブラックベリーを刈り取ったら大雨でどうなるか気が付かなかったのか」と責めた。バーナネットは「オードリーの要望どおりに刈った。不可抗力だから隣に保険が入る」と応えた。エルジーは「誰とでもぶつかり相手のせいにする」と怒って出て行った。エルジーはバーナネットは狂っていると思ったらしい。

 

バーナネットは20年前世話になった学部長のP・ジェネリ(クローレンス・フィッrシュバーン)に会った

シアトルに来て結婚し、“20マイルの家”の設計で賞を取りながら挫折、ビーを生みこれに人生をかけ、今、意味不明な不安で苦しんでいることを話し、ジェネリックの答えを待った。

 

一方、エルジーは精神病医のジャネル・カーツ先生(ジュディ・グリア)に会った

バーナネットとの出会い、彼女がすばらしい建築家であったこと、突然建築界から引退し対人恐怖症になり、生まれたビーに固執し、今回の隣家との騒動、薬を大量に隠し持っていることを話し、カーツ先生の答えを待った。

 

このふたつの話合いシーンを交互に見せ、バーナネットとエルジーの相手の見方を浮き上がらせるとても面白いs-ンだった。

 

ジェネリ学部長の結論は「創造的な仕事をせよ!」、カーツ先生の答えは「精神病院で治療する」だった

 

エルジーの研究室にFBIのストラング捜査官(ジェームズ・アーバニアク)が訪ねてきた

「デリーの仮想秘書のマンジュラ、実はロシアの犯罪組織のダミーだが、彼があなたのクレジットカードの全資産を引き出し、捜査している」という。秘書のスーリンがカーツ先生を呼ぼうと提案した。

 

バーナネットは音楽会でのビーの童謡“ぞうさん”を尺八で演奏するのを聞いて自宅に戻った。

 

そこにはエルジーにスーリン、ストラング捜査官にカーツ先生が待っていた

エルジーからマンジュラによって全財産が盗まれたことが告げられた。バーナネットは「まさか?テクノロジーとは一切、手を切る」とスマホを水槽に投げ入れた。(笑)カーツ先生が精神病院治療を強く勧め、エルジーも「南極にはビーと二人で行く、君は残れ」とこれを支持した。バーナネットはトイレにと席を外し、隣家のオードリーのところに逃げ出した。(笑)

 

オードリーに詫びを入れ、彼女に衣類を借り、空港に送ってもらった

 

次の日。オードリーから母を空港に送ったことを聞いたビーはエルジーに「母は南極旅行に発った」と主張し、「待てば戻ってくる」というエルジーを説き伏せ、ふたりでバーナネットを追うことにした

 

バーナネットはカヤックで南極の風景を楽しんでいると(冒頭シーン)プランクトンを採取する女性ベッキーに出会った

 

ベッキーのプランクトン採取を手伝いながら、極点の研究施設が改装される計画があることを知った。「改装計画に応募した!」、このためには極点に立ち現場を見たい。そのためには特別なチームに加わる必要があった。バーナネットは施設修理工としてチーム員に採用され、極点に立つことになった。このことをビーとエルジーに伝えようとしているところに、ふたりが現れた。3人の家族の絆が戻ってきた

 

ビーの最後のナレーション

ジェンツーペンギンは生涯添え遂げる。でも最近は20%は違うと分かった。つまり生涯添い遂げるのはそれを選択したからだ!パパとママのように!

 

まとめ

タイトルが生きるよう、ミステリアスなストーリー展開にしようとして、おかしな架空秘書が登場し複雑な物語となっているが、家族の再生物語として楽しめる作品でした

 

テーマは女性の人生によく見られる、結婚・出産でそれまでのキャリアを諦める生き方に「何度でも人生はやり直せる」と希望を与えてくれるコメディ・ドラマだった。主人公のバーナネットの生き方のみならず、中学生の娘がビーや夫のエリジーの生き方、家族の絆がしっかり描かれているのがいい(紹介省略)。

 

ケイト・ブランシェットの実年齢より若い、化粧気を無くした失意の天才建築家役これがブランシェットなのと当初驚いたが、役によくハマり、隣人との大喧嘩や仮想秘書での失態で夫エルジーと言い合うシーンなど迫力があり、どん底から自分を取り戻し明るくなっていく演技に笑った。楽しいドラマだった。

 

天才建築家バーナネットの娘ビー。創造者で破壊者ヒンドゥー教のリシュナの再来だというビーが音楽会でいかなる曲をどう演奏するかと期待していたら、ビーが演奏する尺八で生徒が唄う童謡「ぞうさん」で、これがリシュナに感じられるのかと笑った。

 

ビーを演じたエマ・ネルソンは快活で聡明。バーナネットは人嫌いだが、行方不明になってもこの娘に探し出してもらえるラストシーン。エマ・ネルソンの母親を大切にする演技、とても感じがよかった。

 

バーナネットが設計した“2焦点メガネ”、“20マイルの家”の動画は、製作意図を含め、見るのが楽しかった。エンデイングで映し出されるバーナネット設計の南極点に立つ建造物がすばらしい。建築家になりたかったなと思わせてくれる作品だった。

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