「コーダ あいのうた」でろう者の俳優として初めてオスカー像を手にした俳優トロイ・コッツァーが製作総指揮を務めた作品。「コーダ あいのうた」での手話のすばらしさを思い出し、これで観ることにしました。(笑)

 

監督・脚本:「パピチャ 未来へのランウェイ」2019)でイスラム原理主義による女性弾圧の実態を描いた女性監督ムニア・メドゥール撮影:レオ・ルフェーブル、美術:クロエ・カンブルナク、衣装:エマニュエル・ユーチノウスキー、編集:ダミアン・ケユックス、音楽:ヤスミン・メドゥール マクサンス・ドゥセール。

 

出演者:「パピチャ」主役のリナ・クードリ、ラシダ・ブラクニ、ナディア・カシ、アミラ・イルダ・ドゥアウダ、メリエム・ムジカネ、ザーラ・ドゥモンディ、サラ・グエンドゥス、他。

 

物語は

内戦の傷跡が残る北アフリカのイスラム国家アルジェリア。バレエダンサーを夢見る少女フーリア(リナ・クードリ)は、男に階段から突き落とされて大ケガを負い、踊ることも声を出すこともできなくなってしまう。

 

失意の底にいた彼女がリハビリ施設で出会ったのは、それぞれ心に傷を抱えるろう者の女性たちだった。フーリアは彼女たちにダンスを教えることで、生きる情熱を取り戻していく。(映画COMより)

 

目論見通り、手話がすばらしいダンス表現になっていた。これだけでも楽しいが、イスラム原理主義による女性軽視、テロ悲劇の実態を知る作品だった

 

 

 

あらすじ&感想

冒頭、バレエダンサーを目指すフーリアが自宅アパート屋上、コンクリー床で練習するシーンから物語が始まる。足の指を痛めるのが痛々しい。これがラストシーンのダンスでどう変わるか!これがテーマだった。

 

フーリアは友人のソニア(アミラ・イルダ・ドゥアウダ)と一緒にホテルの客室清掃員をしながらダンススクールで学んでいた。ソニアはスぺインのバルセロナで踊るのが夢だった。

 

フーリアの母サブリナ(ラシダ・ブラクニ)はキャバレーのダンサーだった

夫をテロで亡くし、シングルマザーとしてフーリアを育ててきた。フーリアはこんな母に車をプレゼントしたいと、知合いの仲介者が居る闘牛ギャンブルに賭けることにした。

 

闘牛の決勝戦の日。フーリアは舞台公演の日だったが、幕間に、ギャンブル場に急いだ。うまく決勝馬を引き当て懸賞金を手にするが、賭けに負けた男に階段で突き落とされ、左目を浮腫、左脚を骨折手術し、声を失った。フーリアはダンサーとしての夢と声を失い絶望の中にいたが、懸命に母サブリナが支え、ソニアが励ました。

 

フーリアのリハビリが始まった

プールでのリハビリで、手話で話し合う女性たちに出合った。そんな彼女たちの中に、1990年代のテロで亡くした息子の死を受け入れられず探し廻っている女性ハリマ(ナディア・カシ)、自閉症姉妹、戦争で捕虜になった女性アメル、子供が産めずに夫に離縁された女性ナセラ、施設から脱走し居場所のない18歳のサナら、さまざまな傷を抱えた女性たちがいた。フーリアは彼女たちの手話に命が感じられ、手話を習い始めた

 

フーリアは階段から突き落とした男を告訴することにした

母とともに警察署を訪ねた。相手は女性警官だった。見せられた容疑者の写真から元テロリストのアリを指名するが「あなた方はダンサだから」と真剣に取り扱わない。イスラム教のこの国では肌を見せるダンサーには強い偏見があるようだ。

 

遠足時、皆でダンスを始めた

フーリアのダンスの上手いことに皆が驚き「ダンスを教えて!」と言い出す。そのときハリマが居ないと気付いた。ハリマは失くした息子を捜しに川に入っていた。フーリアが救助したため皆から感謝され、仲間としての関係が出来上がっていった。

 

フーリアは「あの人たちにダンスを教えたい」とダンスへの夢が戻ってきた

ダンステキスト“身体の劇場(M=C・ピエトロ)に載っている「ダンスは聖地、傷ついた私の体には立ち止まって人生を振り替えるには」の文章を見て気付いた。手話の身体の動かし方をヒントに振付を考え、彼女らにダンスを教え始めた。ソニアがこれを手伝った。

 

ソニアが車で海に連れて行く。裸足で海に入ったフーリアはダンスの振付が自然と湧いてくる。ソニアはビサが取れず闇のパスポートでバルセロナに行くと話した。これがアルジェリアの実態らしい。

 

フーリアのダンスは人気で皆が楽しんでくれる。

皆でブルーのハイク(布)からダンス用のドレスを作る。ハマリがブルーのドレスで舞う。ブルーには反テロのメッセージが込められている。とても美しいシーンだった。皆で遊園地に繰り出しソニアとの別れを惜しんだ。

 

闇の夜、フーリアはソニアを海辺で見送った

フーリアは「ここに残って、ろうあ者のためのダンス教室を作る(自由を手にする)」と夢を話した。ソニアは「時間がない!」と去って行った。密航ボートにはソニアの他の密航者もいた。

 

フーリアが郵便局員姿で郵便ポストに立っているアリを見た

母とふたりで警察署を訪ねた。「アリを野放しにしている」と抗議すると「目撃者が証言を撤回した」と否定。「あなた方はテロの現場に居なかった。事件は解決済み」と取り合わない。

 

フーリアと母サブリナは友人の女性弁護士を尋ねアリの告訴を訴えた

弁護士は「恩赦された犯罪者は厄介だ!」とこの告訴を受け付けなかった。フーリアは掌に「警察もグルか?」と書いて弁護士に聞くと「あの手の男は危険だ!力になれない」と言う。

 

フーリアはダンスショーを計画して練習に挑む。焦った指導に注意も出るが皆は喜んでこれを受け容れてくれた。

そんな中で、アパートがアリに襲われた。フーリアは再度弁護士を尋ね告訴を訴えたがダメだった。

 

ダンス教室が閉鎖された

フーリアが車で駆けつけると「警察がやった」という話しもあったが、そこにアリが「金を返せ!」と現れた。しかし、仲間たちがアリを押し返した。アリは車に傷をつけて去った。

 

フーリアがアパートに戻りブルーのハイクを干していると、携帯に電話が入った。

警察の遺体安置所でソニアの遺体に対面した。

 

フーリアは「この悲劇があってはならない」とソニアを思い出しダンスショーの振付を練った。海、波、手話、友情、天使で考えた。この振付で練習した。どんどんうまくなっていった。

 

フーリアは「アリ、連続テロの容疑者」の新聞記事を携え、弁護士に再度告訴を訴えた。弁護士は「診断証明書を持ってきて!」と引き受けた。

 

自宅アパートの屋上でソニア(遺影)にダンスを披露した

裸足で「希望のために踊る、決して立ち止まらない、自由を夢見て!」と踊った。力強いこのダンスがすばらしい。

 

 

まとめ

99分という短い作品。ストーリーは簡潔だったが、アルジェリアの抑圧された社会で、声を失ったフーリアがろうあ者と出会い、その明るさ強さに励まされ、手話をモチーフにした新しいダンスで社会に挑戦する姿に未来のアルジェリアを見た感じがした。フーリアと同じ体験を持つムニア・メドゥール監督からのメッセージだった。監督の勇気を称えたい

 

手話をモチーフにしたダンスと音楽を楽しめ作品だった。「コーダ あいのうた」では手話と音楽の話だったが、ここでは手話とダンスの話で、表現手段としての手話の多様性を見せてくれたように思う。リナ・クードリのダンスがすばらしい。彼女の手話もよかった。

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