岡本喜八作品で観ているのは「日本のいちばん長い日」(1967)、「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971)のみということで、WOWOW「生誕100年岡本喜八監督特集」での鑑賞です。
大老井伊直弼の落胤が、桜田門外の変で実父を斬るまでを描くというもの。
原作:群司次郎正の「侍ニッポン」(1931)、未読です。監督:岡本喜八、脚色:橋本忍。撮影:村井博。
出演者:三船敏郎、小林桂樹、伊藤雄之助、初代松本白鸚、新珠三千代、田村奈己、八千草薫、杉村春子、東野英治郎、平田昭彦、稲葉義男。
あらすじ&感想:
ナレーションから物語が始まる。下手なナレーションだと思ったら劇中の記録方だと後で分かった。(笑)
万延元年(1860)2月17日、水戸浪士星野監物(伊藤雄之助)を首領とする同志32名が桜田門を望む茶屋で井伊直弼(松本白鸚)が登城するのを待ち構えていた。しかし、井伊は登城しなかった。
メンバーは品川の相模屋で暗殺情報が漏れたと詮議。星野と副長の佐田(稲葉義男)が協議し、横柄な尾州浪人新納鶴千代(三船敏郎)と彼と昵懇の上州浪人栗原栄之助(小林桂樹)の身辺調査をすることにした。
新納の行状についての調査結果は、土蔵に住む素性がはっきりしない浪人だが、めっぽう剣の腕が立ち、捕吏に追われる水戸浪士を助け「侍になりたい!」と大老暗殺計画に加わった男だった。さしたる裏切る理由は見つからなかった。
この新納、相模屋にいりびたりだった。女将のお菊(新珠三千代)はそろそろお金を入れて欲しいと催促するが、これを無視して「一緒にならんか」と口説く。断られると「お前のためにこうなった」と宣う。(笑)
一方、栗原は道場主で学問に秀でた男だった。嫁・みつ(八千草薫)は回船問屋・阿賀谷の娘で経済的にも豊か、井伊大老のやり方に反抗して同志となった男で、新納同様、裏切る理由は見つからなかった。
お菊が新納の身元引受人の木曽屋の政五郎を尋ねると、政五郎が「そっくりだ」と顔を覗く。そして新納の身上を語り始めた。
「ある高名な方の妾腹の子で学問・武道に励み立派に成長したが、あなたに似た高家の娘に惚れた。しかし、父親の名が明かせないことで一緒になるのを断られた。それからの新納は道場破り、酒に入り浸りだ」と。
このころ新納は栗原家を尋ね、栗原の妻みつのもてなし料理で夢を語り、いい気分で土蔵に戻っていた。そこに星野が待っていた。
星野は「犯人は栗原。栗原が喋ったことが妻の口を通して松平家に伝わった」という情報を掴んだ。星野は栗原を誘い出し新納に斬らせることに決めた。
屋新納はこの役を一度は断った。しかし、侍になるためには仕方がないと引き受けた。栗原はまさか新納は刺客とはと思わず、「何故だ?」声を発しながら斬られた。
新納は相模屋で酒浸りとなった。そこに真犯人の情報がもたらされた。新納が犯人宅に乗り込んだとき、星野が犯人・松井源兵衛を斬ったところだった。新納はこの不条理を詰め寄ったが決行日を明かされ、侍になるため、これを受け入れた。
星野は「雛祭りの日、井伊は大奥への挨拶のため必ず登城する」と、この日を決行日に決めた。
その夜、お菊が土蔵を尋ね雛人形を飾った。新納がうれしそうに「いよいよ侍になる、一緒になってくれ!」という。お菊は「侍を捨てて私のところに」と勧めたが「夢は捨てられん」と断られた。
政五郎とお菊は土蔵を訪ねた。新納が居ない。政五郎は新納が水戸の天狗党と関りがあることで訪ねていた。「万一、新納が父の井伊直弼を・・」とお菊に明かした。お菊は「それで侍になるならいい、徳川がなくなるわけではない」と新納を庇った。これを隠密が聞いていた。
星野は新納に9名の刺客を差し向けた。雪の降る早朝、新納は刺客に襲われたがすべてを斬った。
井伊の登城が始まった。
そこに新納が現れた。新納は「朝方、井伊家に襲われた」と言いながら、「あなたの仕業では」と脅した。(笑)
行列が四周から攻撃できる地域に入ったところで一斉に斬りかかった。止めを刺したのは新納だった。井伊の首を掲げ、狂ったように「侍だ」と雄叫びを挙げていた。このシーンはすばらしい!
星野は記録方に「記録を焼却しろ」と命じていた。
まとめ:
痛快な三船敏郎の剣劇を楽しんだ!今の時代、これに優る人はいない!
鶴千代が井伊直弼の首を搔いて雄叫びを上げるが、事前に星野が記録方に記録の焼却を命じていた。それを知らずに雄叫び続ける鶴千代(狂気)。「この物語は寓話だ」という落語でいう“落ち”で終わる。
橋本忍による脚本の妙、時代の狂気を演出する岡本喜八、三船敏郎の狂気と殺陣の上手さ。村井博が撮る映像、見るべきところの多い作品だった。
しかし、原作の「侍ニッポン」でなく「侍」というタイトルがよくわからない。“落ち”で分かるように侍を目指して侍になれなかった男(記録がない)の物語だ。
桜田門の変から100年後、60“安保闘争直後に作られた作品であることを考えると、60”安保闘争に挑んで消えて行った男たちに繋がる。のちの岡本監督作品「肉弾」「日本の一番長い日」「激動の昭和史 沖縄決戦」からこの推論はあながち間違いではなさそうだ。大きなメッセージを託した作品だと思った。
“侍”をPCで検索すると”侍JAPAN“が出てくる。ちょっと悔しい!(笑)
物語の面白さが、観終わってからこみ上げてくる作品だった。
*****