「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが再タッグを組み、スコットランドの作家アラスター・グレイの同名ゴシック小説を映画化作品。グレイは「フランケンシュタイン」の作家メアリー・シェリーをモチーフに書いたという。メアリーの母親はフェミニズムの創始者、父親は無神論者でアナキズムの先駆者。これは作品を見る上で大きな助けになった。

 

すでにベネチア国際映画祭コンペティション部門で金獅子賞を受賞し、今年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞ほか計11部門にノミネートされている。こんなわけでとても期待していた作品。早速公開初日鑑賞。

 

R18指定を知らず観て、なんだこれ!大丈夫かと驚いた。(笑)

 

奇想天外で笑いがあってポルノと見間違うような、失礼だが、際どく見せるそこにテーマがある。その見せ方に唸った!主演のエマ・ストーンにはぜひ主演女優賞をと願っている。(笑)

 

監督:ヨルゴス・ランティモス、脚本:トニー・マクナマラ、撮影:ロビー・ライアン、美術:ジェームズ・プライス ショーナ・ヒース、衣装:ホリー・ワディントン、編集:ヨルゴス・モブロプサリディス、音楽:イェルスキン・フェンドリックス。

 

出演者エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、ジェロッド・カーマイケル、クリストファー・アボット、キャサリン・ハンター、マーガレット・クアリー、ハンナ・シグラ、他。

 

物語は

不幸な若い女性ベラ(エマ・ストーン)は自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)によって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。(映画COMより)

 

 

あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

河に飛び降り自殺したベラは名外科医のゴッドヴィン(ゴッド)により、ベラの胎児の脳を自身の頭に埋め込み蘇生された。ゴッドは生物に他の種の脳を植え込むマッドサイエンティスト。おかしな豚やアヒルがいる。(笑)

 

ベラの幼児のままの行動がモノクロカラーで映し出される。

 

ベラは手掴みで食べ、嫌なら吐く。幼児のようによちよち歩き。(笑)ゴッドはベラを実験体として邸内で育てていた。部屋や実験室で自由に遊ばせる。ベラは死体の性器をおもちゃにしたり、嫌なら顔をメッタ刺しする。本能のままに育ち急速に成長していく。ゴッドは優しく本を読み聞かせ寝かせる。これは彼女の成長に大いに役立った。

 

ゴッドは医者のマックス(ラミー・ユセフ)にベラの観察を任せた。マックスがゴッド邸に来た日、ベラは初潮日だった。ベラが性に目覚め、自慰をするようになった。マックスは禁止されていると教えた。

 

ゴッドはマックスにベラとの結婚を勧めた。マックスはこれを受け入れた。ベラは結婚したがったがマックスが「すこし待って欲しい」と言うので、ゴッドは結婚誓約書を作成するために弁護士のダンカン(マーク・ラファロ)を呼んだ。ところがダンカンがベラに直接会い「良識だらけな社会はクソだ、自由になれば未知に会える」とたぶらかして連れ去った。ベラはこれを信じた。

 

ベラはダンカンからしっかり食べて、ジャンプするほどのセックスの快楽を知り、未知の世界を知るためリスボンへ旅立った。(笑)

 

ダンカンとベラはジャンピングを楽しむが、ダンカンが「男のセックスには限界がある。そう熱中するな」と教えた。これがいけなかった。(笑)ベラはホテルを抜け出し街に出かけて、立ち食いをし、男を拾い、海を見て、自由な世界のすばらしさを知った

 

ベラは行儀が悪くて目が離せない。ダンカンはベラをホテルに拘束し、自由にさせないようにしたが、ホールでダンスが始まると全身で喜びを表し男と踊り出す。ダンカンがその男に嫉妬するとベラから水を浴びせられる。もはやダンカンのコントロールが効かなくなった。(笑)

 

ダンカンは閉ざされた空間なら大丈夫だとクルーズ船の旅に出たが。が、ベラには膨大な智の大海だった。

 

ベラは船内を徘徊。誰もいない、孤独を感じた。そこで出会ったのが年老いた富豪のマーサ(ハンナ・シグラ)とその従者の黒人ハリー(ジェロッド・カーマイケル)。ベラがマーサにダンカンの話をするが「そんな話に興味はない」と断られた。(笑)ベラはショックだった。

 

ベラは「結婚してくれ」と迫るダンカンの望みを「夫がいる」と断った。これでダンカンは船内のカジノ漬けになる。ベラはマーサから本を借りて読み論議することに憑かれていった。知の世界が広がっていく。そんなベラにダンカンは「愛らしい喋りが消える!」と自分のエゴ丸出しで、ベラの読む本を捨て、マーサを追い回す。

 

ハリーからはアナキズムなど政治・哲学について教わる。「現実社会を見たいか」と問われ「見たい」と答えた。

 

ベラはアレクサンドリアの港で飢える民がいる現実世界を知った

 

ベラはハリーの「あれを見ろ!」の声で、船の上に暑さで亡くなった大量の子供の死体を見た。下へ行けば縛られて殺されるという奴隷船だった。ベラはこの現実に驚き泣いた。ベラはダンカンの部屋を捜し、有り金全部を船員に「貧しい人に与えて!」と渡した。運賃がなくなり、船長から次の港で下船を命じられた。ベラは「世界の痛みに耐えている人の味方をする」とハリーに告げて分かれた。

 

パリに辿りつき、無一文のベラは昌館で働き社会の仕組みを知る

 

娼館のボス・スワイニー(キャサリン・ハンター)に誘われ、客を取った。客は3こすりの男だった。(笑)ダンカンにこの男とのセックスを話すと「おまえは化け物だ!」と言われ、稼げないダンカンと決別した。

 

娼館は客の指名で部屋にゆくシステムだった。ベラが呼ばれ部屋に入った。ベラは「最高だった!」とスワイニーに話すと(笑)、「気分がよくなる優しい人」とパンフレットが渡された。

 

ベラは「世界を変える!」と「女性が選んではどうか」と提案した。(笑)

しかし、年増の娼婦から「あなたを嫌がる客もいる」と軽くいなされた。(笑)生きることの難しさを知った。ボスが入れ墨を見せて「働いて頂戴!苦労して世界を知るのよ」と励ました。(笑)

 

ここからいろんな男がやってきてとんでもないセックスを求める。しかし、ベラはこれらバカな男たちにひるむことはなく工夫したサービスで客を楽しませ、弱い立場の苦しみを味わい、アナキストとしての道を選んだ

 

この長いセックスシーンをどう捉えるか?笑いが一杯あるが、男性のむぎだしの欲望・醜態に、人間の尊厳を見出せない“女性軽視”の姿を映し出す映像になってた。

 

ダンカンが「元に戻りたい」と訪ねてきたが、ベラは「私を求めるわけが分からない」と追い返した。知的レベルも人生体験もはるかにダンカンを凌駕し彼に求めるものはなかった

 

ベラはスワイニーとカップルとなり新しい性を楽しむ。あるときスワイニーから「傷がある。あなた子供は?」と聞かれた。「子供は居ない」と答えたが首の傷のことも気になる。

 

そこにゴットからの手紙が届いた。これはマックスがダンカンから聞き出したものだった。手紙はゴットが病に伏せている写真だった。

 

ベラはロンドンのゴットの元に戻り、これまでの人生を生かし、社会を変えると動き出す!

 

ベラはロンドンに戻り自分に何があったかを知ったが、ゴッドに感謝し医者になることを告げた。ゴッドは喜んだ。マックスの「あなたに今でも魅了されている」「あなたの身体だ!自由に!」の言葉に惚れ直して結婚を決意した。

 

結婚式の最中に、ベラには記憶がないが、元夫のフェリシティ(マーガレット・クアリー)が現れ強い言葉で邸の戻るように促す。ベラは何があったかと邸に戻った。そこで見たのは使用人を銃で脅して指示し、女性器を収集する異常マニアの男の姿だった。ベラはフェリシティから逃げるために自殺したことを知った。ベラが邸を逃げ出すとフェリシティが拳銃を突きつけ追って来た。ベラはこれを上手く交わし銃を奪いフェリシティの足を撃った。

 

ゴッドが亡くなった。ベラは「世界を変える」とゴッドの後を継ぎマッドサイエンティストとなった。ここでは試験体の女性に本を読ませ、フェリシティには羊の脳を移植し徘徊させていた。(笑)この結末、ベラもフェミニズムの概念に捉われて過ぎてないか?と心配になった。(笑)

 

まとめ

笑いとテーマが詰まった作品だった。エバ・ストーンの幼児のような歩き方、狂った性のジャンピング、そしてラストのマットサイエンティストとしての微笑み。エバ・ストーンの演技に魅了された。

 

純真無垢で全てを自分の意志で前へと進む人生譚には説得力があった。人は知性で変わると確信した。

男権を主張するバカな男たち、いや社会通念や制度に囚われ自分を開放できない“哀れなるものたち”の姿を見せてくれた。

 

時代設定は19世紀末だが、曖昧で、今の時代のフェミニズム運動に繋がっているフェミニズムに留まらない、社会への変革を示唆しているように思った。

 

セットで撮影されたというが、ベラの精神状態を表すように色彩や画像の歪み、アングルの変化で、ロケでは得られない感覚。それにすばらしい美術、衣装で、監督独特の世界感を味合うことができた。

 

エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォーの演技には目を話せない。

 

何度も言うがセックスシーンの多い作品。これをエマ・ストーンが体を張って演じた。ハリウッドのトップスターともいうべき女優が演じるからこそ出てくる作品の気品、気迫があった。

 

本年度の最高作品だと思う。アケデミー賞の行方を楽しみにしている!

          *****