愛の物語、岩井俊二監督と今泉力哉監督のどちらの作品を選ぼうかと迷いました。() かっこ悪くていい!それでいて愛しい片思いの物語と、この作品に決めました。()

 

「愛がなんだ」(2018)「アイネクライネナハトムジーク」(2019)という不器用な愛の物語の今泉監督のオリジナル作品。監督らしい不器用な片思いの決着のつけかた、最後にこうもってきたかという“ラストレター、最高でした。

 

主演:田中圭。ヒロイン:岡崎紗絵。共演:志田彩良、松本エレナ、白鳥玉季、SUMIRE、山下健次郎、ともさかりえ、小市慢太郎。

 

物語は、

街で一番オシャレな花屋“mellow”を営むのは独身で彼女もいない夏目誠一(田中圭)。そんな彼が小学生の姪っ子さほ(白鳥玉季)を連れてよく行くのが近所のラーメン屋。先代の店主が亡くなり、東京で働いていた娘の木帆(岡崎紗絵)が継いでいた。

夏目は先代の仏壇に供える花も請け負っていた。丁寧な仕事ぶりで多くの常連客を抱えていた夏目。ある日、彼は常連客の一人で人妻の麻里子(ともさかりえ)から、思いもよらぬ状況で恋心を打ち明けられるのだったが<allcinema>

                

今作のテーマは“不器用な片想い”。本当の想いを伝えるのか、伝えないのか。伝えるとしてどう伝えるか。

 

自分の想いを他者に伝えられない人が様々な出会いを通して他者に気持ちを伝えられていく群像恋愛劇。

mllowという花のイメージが不倫愛、他人任せの片思い、憧れの人への片思い、言い出せない片思の人たちをうまく繋いでくれ、終始笑い、やさしい気分で観ることができます。眠くなる人もいるかもしれません。()

ラストで“mllow”で繋がった人たちの想いが、不器用な夏目と木帆の恋を一歩前に押し出すという結末。監督らしい決着の付け方に唸ります!

 

花屋“mllow”のイメージ。その美しさや香りが人々に繋がっていくようで、”人を想う“というメタファーにぴったり。花屋さん、沢山の花、ここで花束を作る田中さんの演技が作品を盛り上げています。

 

 

田中圭さんが醸し出す真面目さ、やさしさ、ちょっとお人良すぎるキャラクターが光る作品でした。() これなら誰にももてるでしょう! そして岡崎紗絵さんの明るくて強い意思をもつヒロインの演技が、ラストまで結末が読めないという感動の物語に繋がっています。

 

 

 

あらすじ:

冒頭、夏目は中学2年生の女の子(陽子・松木エレナ)が花を求めにやって来るが、しっかり好みを聞いて花束を作り、夜になると川辺を歩いて木帆が経営するラーメン屋に花を持って訪れ、2階に上がり仏壇(位牌は左近・小市慢太郎)に花を生け、いつものようにラーメンを食べる。

 

 

ところがテーブル席から二人の夫婦らしきふたりの会話が夏目の耳に入って来る。男(山下健二郎)が女(新井都)に「不倫中はよかったが女房と別れてみるとバランスが崩れ、これではあんたの人生をムダにする」と別れ話を切り出している。女が「あんたは一生自分のような女は現れない」と怒って店を出て行った。() こんな話をラーメン屋でするか?いや、ラーメン屋だから出来る、今だからできる告白。聞いた夏目は大泣きして男に「追え!」と忠告する。ふたりに何があったか分からず、この別れ話をどうこういうことは出来ないが、こんな話に耳を貸す夏目の生き方を問うています。これを目の当たりにした木帆はどう感じたでしょうか!

 

夏目はシングルマザーの姉(清水ゆみ)が「面倒見て!」と預けていった娘“さほ”と一緒に花束を作っていると、美容院の娘・宏美(志田彩良)が花を求めてやってきて、“さほ”と遊んで帰る。夏目は一切“さほ”を不登校で責めることはない。“さほ”を受け入れるという“杓子定規に物事を考えない”彼の想いが出ていて、温かみを感じる作品になっている。

 

こんな夏目に宏美が強い憧れを抱く。宏美がどうやって告白するでしょうか?若い人へのヒントが描かれます!

 

 

冒頭で花を買った陽子はバスケット部の先輩宏美に花を贈って「好きになってもいいですか?」と告白する。陽子はとても陽気で積極的な子。宏美はこのパワーをもらってふたりで“mllow”を訪れ、告白のチャンスを待ったが出来なかった。() しかし、宏美は寝られず気持ちが悪いと、大人びて、コートを着てひとりで夏目を訪ね告白した。夏目はこれを丁寧に断った。このことで宏美のもやもやの気持ちが晴れ、バスケに「ファイト!」と熱中するようになる。爽やかな告白、若い人には恐れず相手に気持ちを伝えなさいと教えています!

 

宏美役の志田彩良さん、中学3年生の役はすこしきつかったですね。しかし、しっかりと物事を考えていく爽やかな演技が光っていました。

 

夏目はよく花を届けている青木夫妻から「話がある」と招かれた。夏目は“さほ”を連れて青木邸に。“さほ”を車に残して青木邸に上がるが、すぐには話が終わらなかった!妻の真理子が夏目が気に入って結婚したいと告白、夫の修二(斎藤陽一郎)が妻の幸せのために結婚を許そうと思うと言い、意見を求められた。こんなバカな!と大笑いでしょう。

 

 

夏目のたわいもない花を生ける際に真理子と交す会話の話に激怒した修一の「君には人の心が分からない、帰れ!」の一喝で、青木邸をあとにした夏目は「自分の都合だけで!」とコケにされた悔しさを見せながら普段口にしないタバコを吸った!

真理子が夫の想いを知るために仕組んだお芝居かと考えたが、面子に拘る夫であればこんなことが起きるかもしれません。(笑)きっと胸の痛い人がいるでしょう! 

 

夏目はこの話を木帆にした。木帆は夏目に同情し「好きな人はいるんですか?」と聞くと「今は花です」とはにかんだ。

木帆は「父のように美味いラーメンは作れない」と店を閉める決心をしたことを伝え、「お客さんのためでなく自分へのけじめとして店を閉める、その掲示はしない」という。

 

この告白に夏目は、この店に繋がる多くの人の想いを考え、「店がなくなると悲しみ人がいる」と再考を促した。

 

木帆は自分の意思が揺らぐ、相手に迷惑をかけるかもしれないという想いから、店を閉じた後イタリアに留学して建築の勉強することは言わなかった。

 

父・左近(小市慢太郎)は生前、木帆の人生を想い、万一ラーメン屋を閉じるときに渡して欲しいと夏目に手紙を渡していた。そこには店を閉じたときでないと話せない想いと夏目が木帆がすきだと書かれていた。左近は毎日ラーメンを食べにくる夏目の想いを知り、彼に木帆を託そうと思っていた。

 

木帆は友人や世話になっている美容師さんの意見を聞き、店を閉じた夜夏目にイタリアに行くことを伝え、これからの想いを綴った文を夏目に渡した。そこにはイタリアに行く決心について書かれ、これからもお付き合いして欲しいと書かれていた。

 

夏目は翌日白いブーケを持ってラーメン屋を訪ねると、上空に飛行機が飛んできた。ふたりは同時に空を見上げ、振り帰った木帆がはにかんだ。

 

まとめ:

自分は大勢の人の想いで支えられている、就中親の愛はかけがえのないもの。想いは繋がる、そしてその想いを伝えることの大切さを知らされます。不器用な片思いの物語のなかに、まさかこんなバカなと思いながらも、どこか胸にささるところがいい。今回も今泉ワールド全開で笑って泣かされ暖かい気持ちにしてくれました。

 

告白が苦手で気持ちが相手に伝えられなくても、人の繋がりで伝わっていく。心配しなくてもいい。() 人を大切に思う気持ちが大切だと説いています。

小さな物語でしたが、人としての愛情の機微がよく描かれた作品でした。この作品に繋がる次作「his」の公開(2月24日)を期待しています。

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