右、左。
片方ずつ目を閉じて夜空を見上げる。
真っ暗な夜は、空は黒いと思っていた。
でも、右目で見る空は灰色かかっている。
歳を取ると黒い夜空も見えなくなる。
人の脳は偉大で、見えにくくても見えているように補正してくれる。
でも、いつの日か、補正の限界を超える。
その時にはもう手の施しようがない。
現在、私の視神経は15%くらいが死んでいる。
視力が良かった10年前に初めて眼科を訪ねたとき、先生が異常にがついてくれた。
いわゆる緑内障だ。
その時点で10%の視神経が死んでいた。
脳が補正してくれるから自分ではわからない。
眼圧を抑えて視神経の死を先延ばしにする。
それからゆっくりと私の世界は光を失いつつある。
父親は白内障を患ったから、そのうち併発するだろう。
世界の色はどんどん黄色に染まり、やがて光もなくなる。
まだ日常生活に支障はない。
ずいぶん粘っているが、これがアンチエージングの副産物なのか、医学的にも分からないだろう。
これまでの経緯を考えると、あと10年は持つ。
人生の時間は無限じゃない。
頭でわかるだけじゃなくて、実感として理解できるようになってきた。
そんなとき、新しい診断結果がでた。
・・・ガンかもしれない。