月山のふもとの、建物が見えてきた。

あの向こうに、月山が見えるらしいが、あの月山では8月13日には、その頂上で「採燈祭」なるものが行われるらしい。

素朴で神秘的なお祭りらしい。

 

月山は標高1979メートルで夏でもスキーができる万年雪があるという。

冬は烈風が日本海からふくつけるので、大きな社殿は建てられないだろうが、そのため自然石を積んだ石垣のなかに、1メートル四方ほどの小さな祠があり、、かつては御室とよばれ、現在は月山神社本宮とされているらしい。

採燈祭は、この本宮の裏で行われるのだという。

 

 

 

 

私たちは、そこまでは行ってはいない。

いわば、その足元までである。

リフトの発着点のところである。

私自身は、スキー場でスキーをした経験はゼロだから、このリフトに乗るのも初めてである。

リフトは冬の時のまま稼働していた。リフトは動きっぱなしだから、このリフトに乗るのも容易ではないというのが正直のところであるが、他の2人はひょいひょいと、リフトに乗っていく。

仕方がないから、私も覚悟を決めてリフトに乗るしかない。

覚悟を決めれば、乗れないことはない。案外、簡単にリフトに乗ることができた、と自慢するほどでないことは当たり前である。

しかし、足をブラブラさせておくしかない、このリフトの心もとなさは尋常ではないというのは大袈裟だが、落ちないように捕まっていくしかない。

早々と訪れる冬にはスキー客が、そして長い夏スキーが終わるまで、この月山のスキーを楽しむことになるのであろう。

 

 

 

採燈祭というのは、盆の迎え火のことらしい。

あの世に行った皆さんは、この界隈に住んでいるということだろうか。いわば死者の住む世界がここ、ということだろうか。

そして・・・その時期には、本宮の石垣の中から、ホーイホーイという異様な叫び声はここでは聞こえてくるらしい・・・。

 

 

 

私の故郷では、盆の時期は、ある種の行事があったことを思い出す。

それは盆の迎え火にあたる風習だが、それは8月13日、深夜12時に行われる。

 

それまでは大人たちは、その家の者たちはもとより、その家から出た親戚の者たちも含めて、30人位の者たちが集まり、深夜12時のその時まで皆が飲み食いしながら、その時を待っている。子どもたちは起きてはいられないから、その辺で寝ている。さすがの大人たちも飲み食いに疲れたころに、深夜12時、お寺の梵鐘がボーンボーン、と鳴りだす。大人の周りでごろ寝で寝てしまっている子どもたちを起こし、寺に向かう準備をする。

家紋入りの提灯には火が入れられ、その家紋入りの提灯を一族の長が持って先頭にたち歩き出す。

 

そういう行列が、あちこちの暗がりから出てくる。

それまで真っ暗であった通りは、そういう行列で一杯になるのです。

それらが向かうところは菩提寺。

菩提寺の境内は、まるで昼間のような明るさで照らされるのですね。

まず寺の本堂に行き和尚さんにご挨拶、ついで本堂裏の位牌堂に詣で線香をあげ、終わればお墓参り。あとは一目散に我が家に戻り、お仏壇に線香をあげれば布団に飛び込み、爆睡。

 

この行事も、いつの頃か・・・・お寺からの通知で、この種の行事は止めたいということで、行われなくなった・・・・そうなってから、もう大分久しい。

それにしても、このやや風変わりな風習というか・・・奇祭というか・・・これが行われなくなったのと、町の衰退は無論、何の関りもないのだろうが、この風習が行われなくなった頃から町の衰退も急速に進行したような感じもしないわけではない、ような感じもしている・・・。

 

 

 

(第11993回)