降りしきる雨の音が響く小屋の中、晴香とお咲が睨みあっている。
なぜこの人は自分をそんな目で見るんだ、お咲は自分に向けられた蔑まれた視線に戸惑ってしまっている。
「ウチらは銭で晴らせぬ恨みを晴らす、正義の味方なんかじゃないんだ、銭を受け取らないならあんたは唯の人殺しだ」
自分とはまるで違う彼女の価値観にお咲は反論する。
「しかし、古来より武家には敵討ちも認められているではないですか、我々庶民がそれを行うのに何の問題があるんですか」
その言葉がさらに晴香の怒りに火を点けたようで、冷静に努めていた彼女が爆発してしまった。
「何言ってんだ、あんたは何処のお姫さまだい、いいかい人の命を奪うって事は相手がどんな人間であれ全て悪なんだよ」
れいなも仕事人としての心得はわきまえているので、さすがにこの場でお咲の味方はできない。
「ウチらもとっくに畜生道に堕ちちまってる、そんな畜生には頼み人と頼み料だけが免罪符なんだよ」
一気にまくしたてる晴香に全く反論もできないお咲、確かに最初の頃はどんな大義名分を持ってしても人の命を奪う瞬間は胸が張り裂けそうだった、しかしいつしか自分の行いに正当性を持ちはじめ、仕事を終えた後に達成感を感じる事さえあった。
このままでは自分はおかしくなってしまう、そう思い逃げ出したのだった。
「この頼み料を納めないと、恨みを遺した人にも、そしてウチらが手に掛けた相手にも申し訳ないのさ」
幾分か落ち着いた口調でお咲に諭すように語りかける晴香、そして泣きながら自分の浅はかさを恥じているれいなの肩を優しく抱いた。
「お嬢、送っていくよ明日からはまたいつものお嬢に戻ってくれよ」
連れ立って小屋を出ようとする二人、お咲はまだ自分の気持ちの整理がつかず立ち尽くしている。
「先生、後はお願いしますね」
小屋の表でずっと雨の中様子を窺っていた明香に声を掛け二人は家路についていく。
「ちょっとわたしの話を聞いてもらえますか」
濡れ鼠になった明香が小屋の中に現れた、お咲は無言で頷いて囲炉裏端に腰を掛けた。