
サティシュ・クマール『もう殺さない:ブッダとテロリスト』(加島牧史訳、バジリコ株式会社)
カースト外の不可触民として屈辱と差別に苦しんだ末、殺人鬼となったアングリマーラだが、ブッダと出会うことで、非暴力の僧「アサムサーカ」として生まれ変わる。しかし、アングリマーラに殺された人々の家族は彼を赦すことができず復讐心に燃える。
ここで語られているアングリマーラの物語は仏教の経典の中にあるという。著者は「テロリストにどう向き合うか」というテーマとしてこの物語をとらえなおしている。暴力が暴力を生む悪循環を、「赦し」によって断ち切らねばならない。しかし、それには勇気と苦しみが伴う。
この本の中に、遺族が、アングリマーラ、ブッダ、王様を交えて話し合いを行う場面がある。王様のさとしや、非暴力の大切さを説くブッダの言葉に遺族の心は揺れ動く。
しかし、大きな力を持ったのは詩人である夫を殺された女性の言葉だった。
「アングリマーラが厳しく処罰され、他の戒めになることを願ういっぽう、たとえアングリマーラが縛り首になったとしても、わたしの夫の命が取り戻せるわけでもないのです。」
「わたしの夫がこう言っている姿が目に浮かんでまいります。アングリマーラのこの例が、罪を犯し、監獄のなかで意気消沈している人々や日陰に追いやられた人びとの希望の灯になってくれればよいと、そう言っているかのようです。」
キリスト教でも「あなたの敵を愛しなさい」という教えがあるが、それを実践することは非常に難しい。
アングリマーラはブッダの力で改心したが、遺族の心はなかなか癒えない。詩人の妻のように考えることができる人は希である。テロの問題を解決するには、テロをする側の心もさることながら、受ける側の対応が鍵を握るように感じた。