在職老齢年金制度による年金停止の基礎。 | 年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座

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知れば知るほど奥深い年金制度!
僕も日々勉強ですが、一人でも多くの方に年金の事を知って欲しいと思います。
年金は…正確に書くように努めてはいますが、少しでも年金の事を知っていただければ幸いであります。
一緒に年金について考えてみませんか?

こんにちは!
年金アドバイザーのhirokiです。


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1.働くと年金が停止されるというのは本当か。
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働くと年金が停止されると言われる事があります。

これは本当なのでしょうか?


実際は厚生年金に加入して働いてる人がそのように停止される場合があります。
この厚生年金に加入と言いう部分が大事です。


自営業のような厚生年金に加入しない人がいくら働いて稼ごうが、受給してる年金が停止になる事はありません。


なお、停止される年金は厚生年金から支給される老齢厚生年金のみとなります。

そのほかの年金は停止される事はありません。


例えば国民年金から支給される老齢基礎年金とかですね。
遺族年金や障害年金なども停止されません。


さて、どういう条件が揃うと老齢厚生年金が停止されるのか。

それは一定以上の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)、そして老齢厚生年金月額の合計が令和5年度停止基準額である48万円を超えると、超えた分の2分の1が老齢厚生年金から停止されるという仕組みになっています。


現代は働く高齢者が非常に多い時代なので、この年金が停止される仕組みの相談は非常に多いです(在職老齢年金という)。


なお、70歳以上の人は厚生年金には加入しませんが、平成19年改正以降は上記のように停止の仕組みが導入されました。


さて、この在職老齢年金の仕組みは令和4年4月1日になる前まではそこそこ多くの人が停止されていました。
特に65歳前の人ですね。


なぜかというと65歳前の人は停止基準額が28万円という低めなので、給与や賞与と年金の合計をしたら28万円なんてすぐ超えてしまうからですね。

で、65歳以上になると基準額が48万円(令和5年度基準額)になるので、65歳以上の人からはグッと停止される人が少なくなっていました。


65歳以上で年金停止されてる人というと、社長さんとかお医者さんみたいな非常に高額の給与を貰ってる人が多かったです。
高額所得者のような人が停止されてる印象でしたね。


じゃあ、令和4年4月1日以降はどうなったのかというと、65歳前の人も停止基準額が48万円になったんです。
この48万円というのは年度ごとに変更される場合があります(物価や賃金に影響させてる)。


停止基準が緩和される事で、年金が減らない為に働く意欲をアップさせる目的ですね。


まあ、でも65歳前に老齢厚生年金(実際は65歳前の人は特別支給の老齢厚生年金という)貰える人は2030年以降は居なくなるので、今さら停止基準を緩和しても大したことは無いですけどね^^;


特に男性は2025年以降はみんな65歳以降の受給になるのであんまり恩恵を受けるわけではありません。


よって今後の在職老齢年金は65歳以上の受給者で高額所得者のような人の制度となっていきます。


この制度は昭和40年から始まったものですが、随分縮小された印象です。



さて、今回はその在職老齢年金の計算を見ていきましょう。
そして退職後の年金はどうなるのかという事も見ていきたいと思います。


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2.老齢厚生年金受給者の在職中の年金。
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〇昭和32年4月7日生まれのA太さん(令和5年中に66歳になる)



A太さんの年金は老齢厚生年金(報酬に比例した年金)120万円(月額10万円)、老齢厚生年金(差額加算)1万円、老齢基礎年金70万円、配偶者加給年金397,500円の合計2,307,500円(月額192,291円)とします。

65歳以降も厚生年金に加入し、給与は100万円(標準報酬月額65万円)で、賞与は7月と12月にそれぞれ200万円ずつでした。

※標準報酬月額表(日本年金機構)

さて、A太さんは65歳以降はいくらの年金を受給しているでしょうか?


A太さんは老齢厚生年金を受給しながら厚生年金に加入して働いているので、老齢厚生年金が停止される場合があります。

年金は停止されるかどうかを計算してみましょう。


まず、停止計算に使うものは標準報酬月額65万円と、直近1年間に貰った賞与の合計を月額にした額と、老齢厚生年金額10万円を使います。
差額加算は使いません。


なお、賞与は1回の支給につき150万円までとなっているため、令和5年4月時点の直近1年間(令和4年5月~令和5年4月)の賞与合計は300万円(月額25万円)となります。


ちなみに標準報酬月額65万円は令和5年度時点の限度額となっています。


この標準報酬月額65万円と、直近1年間に受給した賞与の合計を月換算した額である25万円の合計90万円を「総報酬月額相当額」と言います。


これを用いて停止額を計算します。


・年金停止額→{(総報酬月額相当額90万円+年金月額10万円)ー年金停止基準額48万円}÷2=26万円(月停止額)

よって、老齢厚生年金(報酬比例部分)10万円ー停止額26万円=支給される老齢厚生年金(報酬比例部分)は0円


A太さんの令和5年4月時点の年金額は老齢厚生年金(差額加算1万円)+老齢基礎年金70万円=71万円(月額59,166円)となります。

なのでA太さんは今のところ偶数月に支払われる年金2ヶ月分は59,166円×2ヶ月=118,332円が振り込まれています。

あれ?配偶者加給年金は?と思われたかもですね。


在職老齢年金による停止で報酬比例部分が全額停止になる場合は配偶者加給年金も全額停止になるというのは必ず覚えておきましょう^^


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3.令和5年からは賞与は無しとなった場合。
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さて、A太さんは令和5年からの賞与は無しとなり、給与のみとなりましたとします。

何か支給される年金に変化があるのでしょうか?


まず、7月が到来すると令和4年7月に貰った賞与限度150万円(月額125,000円)が外れます。
なので令和4年12月の150万円のみが反映します。

・年金停止額→{(標準報酬月額65万円+月換算した賞与125,000円+年金月額10万円)ー48万円}÷2=197,500円


という事は老齢厚生年金(報酬比例部分)10万円よりもまだ停止額のほうが多いので支払いはまだ0円ですね…
変化なしです。


次の12月を待ってみましょう。


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4.今まで1年間働いた分で年金再計算をする。
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次の12月が来るのを待ちたいのですが、その前に年金額が変更される時期が来ます。

それは10月です。


令和4年4月からの改正で、65歳以上の人は8月までの1年間の厚生年金記録で10月分の年金を再計算する事になりました。

毎年年金額を変更させるようになったわけです(改正前は退職するか70歳になるかが必要でした)


つまり令和4年9月から令和5年8月までの12ヶ月間働いた分で年金を再計算するという事ですね。

9月1日にその処理をするため、その前月である8月までの記録を使い、処理の翌月分である10月分からの年金額変更となります。


ついでに覚えておいて欲しいのですが、それを「在職定時改定」と言います。


「令和4年9月から令和5年8月」までの12ヶ月の標準報酬月額と賞与の合計は65万×12ヶ月+150万=930万円です。

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※注意
差額加算も増える場合がありますが、厚年期間がすでに480ヶ月ある人は増えません。
A太さんは増えないとして進めます。
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この平均は775,000円なので、平均標準報酬額775,000円×5.481÷1000×12ヶ月=50,973円となります。

そのため令和5年10月分の老齢厚生年金(報酬比例部分)120万円+50,973円=1,250,973円(月額104,247円)


在職定時改定により老齢厚生年金(報酬比例部分)が増えましたので、この10月分の年金停止額にも影響しますが、そこは割愛して(煩雑を避けるため)12月分の年金停止額を計算しましょう。


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5.令和5年12月の賞与も外れたら…
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さて、令和5年12月の賞与150万円も外れるので、今度こそは支払いの年金は現れるのでしょうか。

停止額を計算してみましょう。


・令和5年12月以降の年金停止額→{(標準報酬月額65万円+年金月額104,247円)ー停止基準額48万円}÷2=137,123円

よって、令和5年12月も老齢厚生年金(報酬比例部分)は0円という事になりますね…^^;


いやー、しかしそれだと事例的に困るので標準報酬月額が50万円だったとしましょうか。


そうしますと年金停止額は、(標準報酬月額50万円+年金月額104,247円ー停止基準額48万円)÷2=62,124円になります。

となると老齢厚生年金(報酬比例部分)104,247円ー年金停止額62,124円=42,123円(年額505,476円)の支給される部分が出てきました。


よって、この場合だと令和5年12月からの年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分505,476円+差額加算1万円)+配偶者加給年金397,500円+老齢基礎年金70万円=1,612,976円(月額134,414円)となります。

支払われる報酬比例部分が出てきたので配偶者加給年金(ただし配偶者が65歳になるまで)も復活しました。


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6.途中で退職した場合。
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最後に退職した場合を見てみましょう。

A太さんは令和6年5月31日付で退職したため、翌月6月分の年金からは一切停止額は無くなります。
年金額は令和6年5月までで計算します(在職定時改定を毎年やりますが、便宜上計算をまとめます)。


65歳以降働いた期間は令和4年4月から令和6年5月までの26ヶ月。
その間の平均標準報酬額をとりあえず72万円とします。


平均標準報酬額72万円×5.481÷1000×26ヶ月=102,604円となり、よって令和6年6月分の年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分)120万円+102,604円+差額加算1万円+配偶者加給年金397,500円+老齢基礎年金70万円=2,410,104円(月額200,842円)となります。


退職(厚生年金資格を失う)したので停止額が無くなり、65歳以降働いた分が加算されて年金総額が増えましたね(退職改定という)。

在職中は今回のように年金が停止される事がありますが、退職した時は働いた分が増額した年金を受け取る事が出来ますので働くのは年金を増やすのに有効です^^

というわけで、在職老齢年金と在職中や退職時の年金の変化は非常に重要なところですので、せめて停止額の計算は覚えていてほしいなと思います。


※追記
老齢基礎年金は20歳から60歳までの期間のみを使うので、60歳以降厚年に加入しても増加しません。
なお、老齢基礎年金満額を受け取れない人(480ヶ月に足りてない)が60歳以降に任意加入する事は可能ですが、厚年加入中は任意加入が出来ません。


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3月15日の第285号.約40年前に発生した厚生年金からの遺族年金を貰ってる人と今の制度の人が全く別物の理由。

3月22日の第286号.共済と厚年期間がある人で平成27年10月以前に65歳になった人とは貰う年金が違う事例。

3月29日の第287号.共済と厚年の期間があるが死亡した時の2つの場合の遺族年金と、65歳時の妻の年金。

4月5日の第288号.年金貰うのを遅らせると年金が増えるけども、今の制度の前の2度の繰下げ制度事例比較。

3月1日の第283号.海外居住中や60歳から65歳までの年金に加入していない時の障害年金事例はやや特殊。

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