宇宙空間の利用とコンピュータ技術に重点を置くアメリカの新しい軍事理論と兵器体系開発の動向について書いてきた。

それにもかかわらず、ブログテーマを「Sinology」としてきた。もちろん成り行きではあるのだが、思惑でもある。

「アメリカの覇権に挑戦しようとしている中共政権が、宇宙空間の支配権をアメリカと争える能力があるか」


という問いかけをしてみようと思っているからだ。

現時点では中共はアメリカに宇宙空間でおそらく対抗できない。宇宙開発では大幅に遅れをとっている。

それでも、中共は有人宇宙飛行を自力で実現した。有人宇宙飛行を自力でやった国は3つしかない。そして以前ここで述べたように、月観測を計画している。

有人宇宙飛行ができるということは、地球の周囲の周回軌道上に宇宙ステーションを建設する第一歩とも考え得る。

月の周囲を回る人工衛星を打ち上げられるなら、ラグランジュ点の占拠や月面基地の建設への最初の一歩となり得る。

もし強化された服が開発され、銃弾や手榴弾の破片や毒ガスなどを防ぐことができれば、歩兵の防御能力は向上する。

もし人間の筋力を補う補助動力を服が内蔵すれば、より重い兵器を歩兵が携行できるようになる。

もし、衛星通信が可能な無線通信装置を服に組み込むことができ、衛星から得た位置データを例えばヘルメットのバイザーに映像・画像として表示できれば、歩兵の通信コミュニケーション能力は大幅に向上し、司令部と末端の兵士が直接連携できるようになるし、偵察飛行中のUAVsから情報を前線の兵士が直接得られるようになる。

現在こういう方向へアメリカ陸軍の研究が進んでいる。残念ながら研究開発の細部は分からない。mattにも手元に情報がない。

しかし、断片的に情報は入ってくる。

“Force 21”プロジェクトについて以前述べたが、歩兵を無線通信によってネットワーク化する実験はすでに90年代から行われており、アフガニスタンとイラクである程度実用に供されたらしい。メディアで報道されたのは前線司令部の様子だけだったが、最前線で戦う歩兵の側にも当然何らかの新装備があるはずだ。


強化された新しい戦闘服が開発されていることは、たまに報道される。(例えば、Yahoo! ニュースなどでも、ぽろっと出てきたりする)

こうした新しい装備をほどこした小規模な部隊は、最終的にはこういう姿を目指しているらしい。

・少人数で部隊を編成する。新型の戦闘服を着た数名と、在来型の装備をした数名と、通信の専門家、それに指揮官とでチームを編成する。

・小型のミサイル等PGMsで武装する。数十キロから数百キロ離れた場所も攻撃できるようになる。

・通常は自動車で移動する。

・UAVs、偵察衛星、司令部と直接データをやりとりし、司令部の命令に従いつつ自律的に行動する。連携して行動する友軍部隊は、例えば数百キロ離れていたりする。

こういう小部隊で、例えば1つの都市全体を制圧してしまうような、そういうシナリオを描いているらしい。

スーパー兵士の登場だ。

「戦場の未来」では、地上戦の将来像も描かれている。こちらもなかなかSF的だ。しかし一見SF的であっても、現実的な政策案として書かれているのは間違いないと思うし、ペンタゴンの研究開発に関する断片的な報道を見ていると、真剣に研究しているだろうと思う。

現在の地上戦の主役は戦車、装甲兵員輸送車(註1)、攻撃型ヘリコプターなどだ。前述したように、これらの兵器は衰退しつつある(註2)。問題は、そこでアメリカ陸軍としてはどうするか、ということだ。その解は「歩兵への回帰」にある。

戦争における最小の戦闘単位は、個々の兵士である。戦車など戦場で使用される機械「兵器プラットフォーム」に比べると、人間はずっと小さい。小さければ小さいほど相手に発見されにくい。

発達したPGMsが投入される戦場では、敵に発見されにくくすることがまず第一に望ましい。レーダーなど各種センサーによって探知されにくく、また一旦探知されても追尾を振り切れるような存在が望ましい。探知・追尾できなければ、どんなにミサイルそれ自体の性能が優れていても命中は覚束ないからだ。

しかし、兵士=生身の人間には欠点がいくつもある。

まず、敵の攻撃に弱い。直撃弾をくらわなくても、例えば至近距離に迫撃砲弾が落ちれば負傷し戦闘能力を喪う。

機械に比べると人間の筋力ははるかに弱い。携行できる攻撃力に大きな制約がある。普通はライフル・拳銃・手榴弾くらいのものだ。せいぜい対戦車ミサイルや携行型(小型)対空ミサイル程度だ。

コミュニケーション能力も低い。伝統的な軍隊では兵士一人一人は無線通信機を携行するわけではない。自力で連絡をとれる範囲はせいぜい自分の声が届く範囲内というわけだ。

監視できる範囲も視力や聴力の範囲内でしかない。だから "fog of war" に巻き込まれやすいし、巻き込まれたら頭が混乱し、適切な作戦行動をとれなくなり易い。

これを逆に見ると、「もし、個々の兵士に十分な防御力・攻撃力・通信コミュニケーション能力・偵察能力を持たせることができたら、それは地上戦の革命となり、兵士一人一人の戦闘能力を飛躍的に高めることができる」ということだ。

- - - - - - - - - - -

註1: APC(armoured personnel carrier)と略称される。装甲車の内部に人間がたくさん乗り込めるスペースがあり、後で扉が開いて出入りできるようになっている乗り物と思っていただければ良い。

戦車は、生身の身体むきだしで防御力の弱い歩兵隊に代わって敵陣を突破するために元来は作られた。最終的には敵地を歩兵隊が占領することにより地上作戦が完結する。しかし戦車が高速化し、かつ戦車隊と歩兵隊の連動を高度に要求されるようになり、歩兵隊が戦車隊の速度に合わせて移動することを要求されるようになった。そこで弾丸飛び交う戦場で歩兵を輸送するAPCが作られるようになった。

註2: 携行できる小型地対空ミサイルの発達により、敵の歩兵に撃墜される危険をヘリコプターもジェット戦闘爆撃機も覚悟しなければならなくなった。

前回「宇宙戦争?(その12)」で、アメリカが制海権を将来も維持する手段として、敵国から離れた場所にミサイル発射基地を設置する、という選択肢を書いた。大気圏外に待機する対艦ミサイル衛星とは別のもう一つの選択肢だ。

このアイデアはmattが勝手に前回書いたものだが、「戦場の未来」の著者 Friedman 夫妻は、このアイデアと似て非なるアイデアを同書中で提示している。

「ユーラシア大陸から少し離れた海上(公海上)に、櫓(やぐら)を建て、それをミサイル発射基地とする」というアイデアだ。

これが実現するかどうかはmattにはよく分からない。このアイデアよりは、ミサイルの射程をうんと長くして、どこかの島か大陸(理想的にはアメリカの領土内)に設置する方が現実的だと思っている。

海洋土木技術上の問題がまず出てくる。公海上に軍事目的で建築物を設置する、というのも前例の無い話だ。国際的な議論を巻き起こしそうな問題だ。政治的に微妙すぎる感じがする。敵のミサイル攻撃を同防ぐのかも問題だ。

著者 Friedman 夫妻は同盟国に依存することへの問題意識を持っており、できるだけ同盟国への依存度を下げるよう考えた上で上記のアイデアを出している。

ここから「アメリカ軍部がPGMs体系の下で実施する戦争をどのように想定しているか」について書く。これからのアメリカ軍の方向性ということだ。

話が分かりやすいので、海上戦闘についてまず書こう。

「宇宙戦争?(その8)」で述べたように、航空母艦はすでに衰退しつつある。対艦ミサイルはその性能は別にして、中国、イラン、北朝鮮などアメリカに必ずしも友好的でない国々がすでに保有している(と考えられている)。だからそれらの国々の近海に空母戦闘群を派遣することの危険性が上がっている。

ホルムズ海峡、台湾海峡やバシー海峡の交通をアメリカの自由にできなくなるかもしれないというわけだ。

このような状況下で、これからどうしたらアメリカは制海権を維持できるのか。

前回の「宇宙戦争?(その11)」で述べたように、「敵の手の届かない遠距離から射撃し、正確に目標に命中させられる」ことが理想形だ。

水上艦船は海の上で目立つ。味方の水上艦船から敵の対艦ミサイル発射プラットフォーム(水上艦船か、地上の発射台かは別にして)を狙うにしても、敵の航空機の餌食になる可能性がある。

当面は航空機と潜水艦が比較的安全確実な手だ。だがこれらについても、敵に対策はある。ミサイルで重武装した航空機は航続距離がそれほど長くないから、どこか敵地の近くに飛行場(或は航空母艦)を設置しそこから出撃させねばならない。基地を攻撃されるかもしれないし、途中で撃墜されるかもしれない。

潜水艦も対潜哨戒機の攻撃に遭う可能性がある。必ずしも確実に潜水艦を破壊できるわけではないが。(註1)

そうすると、こうなる。

(1)敵国からかなり離れた場所(大陸の一部か島かは別にして)に対艦ミサイル発射基地を置く。

(2)大気圏外の衛星軌道上に対艦ミサイルをたくさん搭載した衛星を周回させておく。

2つを比較すれば(2)の方が有利だ。対艦ミサイル発射基地が地上にあるならば、敵が遠距離を飛行して目標に命中できるミサイルやB2のような戦略爆撃機を開発できれば、破壊可能だ。だが、大気圏外ならば宇宙空間で戦闘できる能力を保有しない限り、手を出せない。

この大気圏外に対艦ミサイル衛星を周回・待機させておくアイデアはまだアイデアに過ぎないが、1996年に出版された「戦場の未来」に既に書いてあることだ。(註2)

水上艦船に上から対艦ミサイルが降ってくる。ただし雨あられとではなく、水上艦船の数+αだけ降ってくる。将来は超音速ミサイルとなる。そういう未来図だ。世界のどこにでも好きなところにアメリカ軍が対艦ミサイルを降らせることができる、そういう未来だ。(註3)

こうなると、宇宙空間の軍事利用を独占できるかどうかが重要になってくるのは理解できると思う。だから将来は「宇宙空間の覇権をめぐる大気圏外での戦闘」が起こり得る、と前に書いたが、こういうことだ。

- - - - - - - - - -

註1: 潜水艦は衰退しつつある兵器とは言えないとmattは考えている。これについてはいずれ述べる。

註2: ということは、1990年代前半にはすでにアメリカで誰かが研究していたということだ。

註3: こうなったら航空母艦の時代は完全に終わるだろう。中共政権が航空母艦を入手しようとしていると時々報道されるが、mattはあまり気にしていない。将来の空母の運命はかつての戦艦 Prince of Wales や大和の運命だと考えているからだ。対艦ミサイルなら日本はすでに自力開発しており、自力で性能を向上させることも十分できる。中共政権については、空母よりも宇宙開発の動向の方がよほど関心がある。

現在のところmattに十分な情報が与えられているわけではないので、ここから先は推測するしかないが、精密誘導兵器(以後PGMsと呼ぶことにする・・・註1)の開発を進めるにあたって、米軍が行き着いたところは以下のようなことだったろうと思う。

(1)弾道兵器の限界を突破するのが目的だから、目標を遠距離から攻撃しかつ精密に誘導して命中させなければならない。そのためには、宇宙空間から地表(海面も含む)を監視・偵察し、地表面のデータを事前に収集・分析しておくべきだ。そのデータを使い精密に制御さえできれば、そのPGMsを遠距離の目標に確実に命中させることができる。

(2)兵士を敵の反撃に露出させないためには、兵器プラットフォームを敵地からはるか遠くに位置させたままPGMsを発射できる必要がある。コンピュータ技術を駆使し、偵察衛星等で収集した地表面のデータをもとに飛行体を精密に制御できれば、遠距離の目標も確実に破壊できる。

こうして、トマホークが開発され、GPSが開発され、KH-11のようなスパイ衛星が開発された。UAVs(註2)も開発された。21世紀に入ると「ロボット兵士」の研究まで報道されるようになってきた。

アメリカで70~90年代に爆発的にコンピュータ技術が発展したのも偶然ではないとmattは思っている。ミサイルなどの遠隔誘導・制御、必要なセンサー類の制御・データ解析の必要が生じ、本気で研究したのだろうと思う。

こうして現在の米軍の姿へと少しずつ変化が進行してきた。

- - - - - - - - - - - -

註1: PGMs = precision guided munitions 。ICBM、IRBM、SLBM等の核弾頭を積んだ弾道ミサイルを除くその他のミサイルの類は、一般にこう総称されている。

註2: UAVs = unmanned aerial vehicles 。主に偵察用に使われている小型の無人飛行機。

膨大な被害をアメリカ(とベトナムにも)に強いたインドシナの戦いの末期1970年代半ばに、TVカメラを搭載した爆弾が登場した。AGM-65マベリックと呼ばれる爆弾だ。

可視光線に感応する小型のTVカメラを先端に搭載し、その映像を戦闘爆撃機の爆撃手が見ながら爆弾を目標に向けて誘導することができた。

この爆弾には小さなフィン(舵)がついており、弾頭の向きを変えることができた。TVカメラの映像は細い電線を通じて戦闘爆撃機に伝えられた。もちろん電線は戦闘爆撃機の側から切り離すことができる。

この爆弾の効果は画期的だった。命中精度が大幅に向上した。(登場が遅かったため、ベトナム戦争の戦局にはほとんど影響しなかった)

ベトナム戦後、米軍はAGM-65の使用実績を分析し、以下が判明した。

(1)命中率向上のおかげで、敵に同じ量の損害を与えるのに従来型の爆弾よりはるかに少ない爆弾投下量で済んだ。

(2)爆弾投下量が少なくて済むため、戦闘爆撃機の出撃回数を減らすことができ、敵に与える同じ量の被害に対して従前より少ない味方の損害で済んだ。

(3)爆弾が誘導型か従来型かの差は、出撃回数あたりの味方機損害発生率には影響しない。誘導型爆弾を使ったとしても、敵前に自軍の姿をさらしたら敵の反撃に遭う確率は従前と変わらない。

すなわち、自軍の損害を少なくしたければ、敵前に姿をさらす機会をできるだけ少なくする戦法を開発するのが良く、それには精密誘導兵器=ミサイルが適切な選択だということが判った。

これ以後、アメリカ国防省・軍は少しずつ精密誘導兵器の世界へと進んでいくことになった。弾道兵器体系下での戦法・戦術の限界を打ち破り、自軍の損害を極小化する方法論が遂に見つかった。

弾道兵器による戦いがある種頂点に達した第1次・第2次大戦を経て覇権国となったアメリカには、覇権を維持する上で一つ大きな弱点がある。ユーラシア諸国と比較して人口がそれほど多いわけではないことだ(註1)。ユーラシアに覇を唱えたければ、人口の少なさを克服する必要がある。少ない人口で全世界をカバーしなければならない。

アメリカの政治体制も戦争遂行にはそれほど適しているとは言えない。

戦争遂行に最も適している政治体制は、mattの考えでは共産主義体制だと思う。上から強制して特定の目的のために持てる資源を総動員するには、共産主義が適している。

共産党が支配していると、伝統的な君主政治と違って末端の国民との間に貴族や地主が介在していないので、国民総力戦に持てる人口全てを動員できる。

議会制民主主義体制も末端の国民と政府との関係は共産主義体制と同様直接的だが、言論の自由 - 政府への反論の余地が認められているから、意思決定に時間がかかることが多い。戦争遂行上は短時間での行動は重要だから意思決定に時間がかかる政治体制はその分戦争遂行に向いていない。

共産党支配下であれば、命令に反する軍人は軍内部の共産党委員会の指示のもと直ちに射殺すればいいし、一般人なら反革命主義者として強制収用所送りにすればいい(註2)。

アメリカの政治体制(アメリカに限らないが)が共産主義体制とある意味正反対なのは、言うまでもないだろう。

このために、世論の動向によって戦争遂行がし難くなる可能性を想定する必要がでてくる。有権者が自分の近親者の安否を気にするから、往々にして戦争を避ける側へと世論が動きやすい。戦争中であっても、「クリスマスまでには帰還を」などという声が出てきたりする。

こういった背景があるので、アメリカの政治家と軍部は、自軍の兵士の生命が損なわれることに敏感にならざるを得ない。そうすると、多数の被害が出る作戦・戦争指導を回避したくなる。

しかし、弾道兵器体系はそもそも「命中率が低いのをカバーするために、多数の兵士を前線に連れて行き、一斉に行動させて敵に弾薬の雨を降らせる」ことが前提となっている。敵が同種の弾道兵器を保有している限り、この戦法そのものに「敵の反撃に多数の自軍兵士を露出させるリスク」が最初から内在している。歩兵隊だろうが戦車隊だろうが爆撃機隊だろうが、基本は同じだ。

弾道兵器体系に依存している限り、多数の被害が出るリスクを犯さずに戦争を遂行できない。ベトナムで戦ってアメリカ軍部はこのことが身に染みた。

- - - - - - - - - -

註1: 記憶が正しければ、1970年代に2億人台に達し、1990年代末期に3億人にほぼ達したと思う。

註2: 共産主義が戦争遂行に最適の政治システムだ、という見解はmattのオリジナルではない。日本個人投資家協会理事長の長谷川慶太郎氏の著作で読んだ請け売りに過ぎない。mattは長谷川氏のこの見解に全面的に賛成だ。

ドイツにソ連が攻め込まれた後のソ連の対応は良い例だ。ヨーロッパロシアにあった工場をシベリアに移転させ再稼動させて銃火器・戦車等の製造再開まで2ヶ月ほどで行った例があるそうだ。恐るべきことに、まず最初に工場を移転させ、工場の労働者は体だけ移転し、野宿しながら移転した工場を操業再開させたらしい。その後住居を設営したとのこと。

こういうやり方には有無を言わせぬ冷酷非情な政治体制が最も適している。

航空機が戦場に持ち込まれ、空から弾道兵器(爆弾)を投下する戦法が開発され、爆撃機が登場した。

爆撃機はそれ自体が「兵器プラットフォーム」であり、弾道兵器を何百キロメートルも離れた敵のすぐそばまで運ぶ機能を持っている。

航空機の航続距離が延びれば延びるほど大砲の射程距離の短さが比較劣位として浮き彫りになり、航空機による爆撃の優位性が上がった。これが海上戦闘に持ち込まれ、戦艦の優位性が崩れ去ってしまった。(註1)

こうして第2次大戦から海上戦力の要は航空母艦となった。その初期から「航空母艦の衰退」プロセスは始まった。

航空母艦の周囲に駆逐艦や巡洋艦を配備して、敵の水上艦船や潜水艦を警戒する。空母機動部隊どうしの戦いが起こるようになったので、敵の航空機による襲撃を警戒する必要が出、航空母艦に戦闘機を搭載し敵の爆撃機隊を防ぐようになった。

敵が接近しているのを事前に察知するため偵察機を搭載し、レーダーを配備した。駆逐艦の中には対空兵器を主に搭載して敵の空からの攻撃にのみ備えるものも登場した。

攻撃してくる敵を破壊する側の努力も進行し、爆撃機だけでなく雷撃機も装備し、爆撃機は急降下爆撃を行い弾道兵器の限界の範囲内で最大限の命中精度を確保しようとした。

第2次大戦後も空母機動部隊の進化と衰退は進んだ。特に敵の攻撃として対艦ミサイルを想定しなければならなくなったのは大きい。

今では、

・レーダーを搭載した早期警戒機を空母機動部隊の上空で24時間飛ばし、敵の対艦ミサイルが低空を侵入してくるのを察知する

・複数(註2)の飛行物体に同時に照準を合わせ、同時に対空ミサイルを誘導して迎撃することができるイージス艦を配備する

・航空母艦に(ジェットエンジン付きの)対潜哨戒機を、周囲を護衛する艦船には対潜ヘリコプターを搭載し、敵の潜水艦を警戒する

という巨大で金のかかるシステムになった(註3)。

これも、在来の爆弾(弾道兵器)を搭載した爆撃機が攻撃してくるのなら、まだ対応のしようもあるが、1982年フォークランド以来(註4)状況は一変してしまった。低空を飛んでくる対艦ミサイルを警戒しなければならなくなった。

低空を飛ぶ飛行物体を途中で撃墜するのは難しい。

まず、レーダーにひっかかりにくい。発見が遅れやすい。低空を亜音速で飛行するミサイルだから、発見が遅いともう間に合わない。

仮に発見しても、迎撃する航空機が上から下を狙って空対空ミサイルを撃つことになる。これが難しい。

戦闘機の機首に装備されているレーダーは最近かなり性能が上がっていて、海面すれすれを飛んでいる飛行物体を発見し、ミサイルで迎撃することもある程度可能になっている。だが、もともと海面の(電波の)乱反射が原理的に問題となっている以上、発見・追尾しにくいことに変わりはない。

結局数十秒という短い時間での勝負になり、発射されたミサイルの少なくとも一部が空母戦闘群の対空監視をくぐり抜けてくることになる。

数千トン級の駆逐艦だと、1発命中すればそれで戦闘は続行不能となる。ひどければ沈没する。

6万~9万トンもある航空母艦だと、1発命中してもおそらく沈没はすまい。戦闘能力を喪失するところまでもおそらく行かないだろう。だが、戦闘能力が少なくとも一時的に低下することは間違いない。

2発・3発と命中させることができれば、もっと戦闘能力が低下する。そうすると、対空監視能力も低下し、さらにミサイルを命中させやすくなる。

つまり、シェフィールドの沈没以来、海上では「ミサイルで攻撃する側が有利」な状態がはっきりしてきているわけだ。ミサイルというわずかなコストで、大きなコストをかけた敵の航空母艦とその護衛艦隊の能力を低下させることができるようになった。

これが、現在アメリカ海軍が直面させられている問題だ。航空母艦が衰退しつつある。

- - - - - - - - - - - -

註1: 兵器マニアの方がもし読まれていたらがっかりさせてしまうかも知れないが、書いておく。航空兵力でもっとも重要なのは爆撃機である。戦闘機ではない。戦闘機は爆撃機など地上や海上を攻撃する友軍機を護衛し、あるいはそれら友軍の攻撃機が自由に活動できる空域を確保するための道具だ。

註2: イージスシステムは確か同時に24の飛行物体に対応できるはず。記憶が正しければ。

註3: これも記憶が正しければの話だが、空母戦闘群1個を維持するのに年間5000億円くらいかかるはずだ。

註4: 82年4月、フランス製の対艦ミサイル「エグゾセ」1発をアルゼンチン軍がイギリスの駆逐艦シェフィールドに命中させた。シェフィールドは沈没した。

兵器の衰退は地上でのみ起こっているわけではない。海上でも起こっている。

アメリカには12隻の航空母艦があり、1隻あたり実働70~90機程度の艦載機がある。移動式の巨大な飛行場が世界のどこにでも派遣できる体制にあるわけだ。

とても強力な海上兵力に見える。空母の周囲にはイージス艦が護衛についている。各種のミサイルも持っている。まさに世界最強、無敵艦隊だ。「航空母艦は衰退しつつある」などと言うと、信じてもらえないかもしれない。

だが、これは事実だ。少なくとも一部のアメリカ軍関係者(官僚・軍人のみならず民間の研究者も含め)は確実に認識している。

航空母艦は、戦艦を代替するより単純な「兵器プラットフォーム」として登場した。

戦艦が大砲を大型化し火力を強化しても、敵も戦艦を持ち装甲を強化し大砲を強化すれば、いずれはこちらが負ける。だから自軍の戦艦の防御をさらに強化し攻撃力を強化する。

戦艦がどんどん大きくなる。金属資源をたっぷり注ぎ込み、燃料をたっぷり与え、多数の兵員を乗せた戦艦を作っておきながら、昔ながらの戦法、「敵のすぐそばまで戦艦を走らせ、そこから砲撃する」という戦法を変えられない。

たっぷり資源を投入しながら、期待できる効果は「大砲の射程内、せいぜい数10キロの範囲内で敵の艦船を砲撃する」ことでしかない。

こちらが敵の反撃を受けるリスクはいつまでたっても下がらない。その一方で、戦艦1隻の乗組員はどんどん増えるから、戦艦1隻を失うことは訓練された人員1千名単位の損失につながる可能性が出てくるようになった。

こうして、戦艦を動員する戦闘行動それ自体が極めて危険になってくる。成功すれば相手に致命的な被害を与えられるが、負ければこちらが致命的な被害を負うことになる。

航空母艦はこの「衰退する戦艦」を代替する手段として登場した。